こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ローレライ

otello2005-03-09

ローレライ

ポイント ★*
DATE 05/3/5
THEATER 109シネマズ木場
監督 樋口真嗣
ナンバー 28
出演 役所広司/妻夫木聡/柳葉敏郎/香椎由宇/石黒賢/橋爪功/國村隼
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


潜水艦の中が舞台になっているのに、普通の建物の中にいるような気分にしかならない。水中を3次元の動きをするのだから、もっと艦内は不安定なはず。特に便所掃除している主人公がバケツの水の傾きを見て艦の浮上に気づくなどということがあるだろうか。この、潜水艦内のリアリティの薄さが作品世界のうそ臭さを大いに強調している。一方で潜水艦対米艦隊の海戦シーンは、その血の通わない薄っぺらなリアリティが逆にスピーディな感じがして効果的。しかし、どちらにしても人命が大量に失われることへの重さはほとんど描かれない。


ローレライシステムという感知装置を持つ潜水艦・伊507の艦長・絹見は原爆運搬船を撃沈せよとの命令を受けマリアナ海域に向かう。途中、米駆逐艦隊と遭遇した伊507はローレライシステムを使い駆逐艦を撃破、ローレライの中枢がパウラという少女の超能力であることに気づく。絹見は折笠という特攻隊員にパウラの世話役を命じる。


何もかもが中途半端にしか描かれていない、へたくそな脚本と編集の見本のような作品だ。長大な小説のエッセンスを抜き出すにしても、小説と映画は別物という割りきりが必要。もう少し登場人物やエピソードを整理しないと小説を読んでいない人間には物語は意味不明だろう。浅倉の陰謀も伊507内での反乱もこの際割愛し、ただ単純にローレライを持つ潜水艦が米艦隊を相手に八面六臂の戦いを演じ、その中で折笠とパウラのやり取りの中で戦争の無意味さを語らせるというような展開にしないと、映画としての見所に欠ける。


その一方で、清永が無駄死にするシーンや、作家が米艦隊の生き残りを取材するなどという不要なエピソードにフィルムを割く不自然さ。キャスティングの段階で誰を中心に語るべきか、脚本の段階で何を中心に描くべきかという方向性をきちんと決めておかなかったツケが完成した映画にすごく反映されていた。


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