こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

サイドウェイ

otello2005-03-12

サイドウェイ SIDEWAYS


ポイント ★★★*
DATE 05/3/8
THEATER ヴァージン六本木ヒルズ
監督 アレクサンダー・ペイン
ナンバー 29
出演 ポール・ジアマッティ/トーマス・ヘイデン・チャーチ/ヴァージニア・マドセン/サンドラ・オー
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


人生が輝きに満ちていたのは遠い過去。それでもまだ半分人生は残っている。ちょっとした行動と勇気でまだまだ人生捨てたものではないと思わせてくれる、熟成したワインのようなまろやかな口当たりと味わいに満ちた作品だ。恋は若者だけの特権ではない。中年になっても心をときめかせ胸を躍らせる、そんな気持ちがどれだけ大切かを主人公は教えてくれる。そしてワインの薀蓄を語りテイスティングに目を輝かせる、そんなワイン通たちの経験や思想がワインを媒介にして語られるのが楽しい。


離婚のショックから立ち直れないマイルスは、親友のジャックが独身最後の1週間を過ごす旅に同行する。目的は南カリフォルニアのワイナリーめぐりとゴルフ。しかしジャックはセックス三昧に過ごすと宣言、それに付き合ううちにマヤとステファニーという二人組に出会う。そしてマイルスとマヤはお互いに惹かれあう。


作家志望のマイルスがワインの味や香りを表現する時のボキャブラリーの豊かさ。甘い香りでも様々なフルーツや花にたとえられ、コクや酸味を言葉にするにも幅や奥行きが要求される。といっても「魂をとろかすようなブリリアントな味わい」といった抽象的な表現なのだが。それでもそれらのワインを描写するひとつひとつの言葉が中年男女の琴線に触れ、彼らの成熟した人生に花を添えている。「成熟のピークを過ぎても、また違う味わいがある」などとは辛い体験を乗り越えたものだけが口にできるセリフだろう。


しかしこの作品のホントの狙いは中年男女の愛と再生よりも、男同士の友情ではないだろうか。大学時代からおそらく20年ほど続いている親友同士。2人で旅に出て、酒を飲み、ナンパをして、バカなことをして、男だけの秘密を作り、夢を語り悩みを打ち明けあう。そこには若者が描くような壮大な未来像はないが、子細なエピソードの中に芳醇な人生を発見することができる。


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