こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ロング・エンゲージメント

otello2005-03-16

ロング・エンゲージメント UN LONG DIMANCHE DE FIANCAILLES

ポイント ★★★*
DATE 05/3/12
THEATER 109シネマズ木場
監督 ジャン・ピエール・ジュネ
ナンバー 31
出演 オドレイ・トトゥ/ギャスパー・ウリエル/ドミニク・ピノン/ジョディ・フォスター
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


銃弾に撃ち抜かれ爆弾に吹き飛ばされる。飛び散る血潮と内臓片が戦場のリアルを肉厚にする。敵襲におびえながら塹壕で眠り、恐怖を蹴散らすために突撃する。ただ生きて帰りたいという願いは命令の前では無力に踏みにじられ、ほとんどの兵士は命を落とす。そんな中、ディテールにこだわった戦場の描写は、自分の手を棄損してまでも銃を取ることに嫌悪感を抱いた5人のフランス軍兵士の心情をわかりやすく解説する。反逆罪で死刑を宣告された彼らこそ、実は戦場でも人間性を失わなかったという皮肉。この作品は戦争を真っ向から否定する。


第一次大戦中、前線で死刑になったという恋人・マネクを探すマチルド。マネクの死に不審な点が多いことを知ったマチルドは探偵を雇い生存者を探す。やがて彼女は、死刑囚は5人いたのに実際に死亡が確認されたのは3人だけだったという事実に行き当たる。


複雑に入り組んだ事実をひとつひとつ解明していくというミステリー仕立ては、はじめは戸惑う。そして、パズルのピースがずべて埋まり全体像が完成したときの感情的な高まりは、ヒロインだけでなく観客まで飲み込んでしまう。マチルダの恋人探しという体裁をとりながらも、マネクの他の4人の死刑囚の人生まで解き明かし、彼らにもそれぞれ愛する人がいて悲喜こもごものドラマを描く。恋人を死に追いやった上官に復讐する女や、子種のない夫に代わって他人の子を身ごもろうとする妻のエピソードなど、幸せに暮らす権利を戦争に奪われた女たちの心の痛みが涙を誘う。


結局、マチルダは記憶を失って療養所で暮らすマネクを探し出す。やっと見つけた恋人、しかし彼はマチルダのことを覚えていない。それでも自分の愛の直感が外れていなかったということを確認し、じっとマネクを見つめるマチルダ。どんなに犠牲を払っても希望を持ち続けていればいつしか人生は好転する、あまりにも甘いラストだが、戦争という大いなる悲劇の中では少しは救いも必要だ。


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