こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

微笑みに出逢う街角

otello2005-03-28

微笑みに出逢う街角 BETWEEN STRANGERS


ポイント ★★★
DATE 05/3/22
THEATER シャンテ・シネ
監督 エドアルド・ポンティ
ナンバー 35
出演 ソフィア・ローレン/ミラ・ソルヴィーノ/デボラ・カー・アンガー/マルコム・マクダウェル
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


孤独なわけではない。暮らしが苦しいわけでもない。辛い現実が待ち受けているわけでもない。それでも普通に生活しているうちに、人生に対してたまった小さな不満は澱のように心の底に厚い層をなし、やがて臨界点に達する。別にそれは大爆発ではないのだが、それでも毅然とした態度で行動して回りの人間に自分の意志を示す。小さな反乱、そして自己の再生。人生の節目を迎えた3人の女性の姿を冷徹なタッチでカメラは見つめる。


絵を描くのが趣味のオリビアは夫の言葉の暴力に苦しみながらも、フィレンツェに行く夢を持っている。カメラマンのナタリアはアンゴラの戦場で撮った少女の写真が雑誌の表紙になるが、自分の仕事に疑問をもち始めている。チェリストのキャサリンは自分の母を殺した父が服役を終えたところを尾行する一方、離婚した夫が引き取った娘との関係に苦しんでいる。


トロントに住む、何の関係もない3人の物語が並行して語られる。その筆致は繊細で緻密。決して大げさに感情表現をすることはなく、彼女たちの置かれた状況を突き放した距離で見つめる。特に父親を憎みながらも憎みきれず、子供に会えない苦しさを理解しているキャサリンの苦悩をデボラ・カー・アンガーが非常に抑制の効いた表情で見事に演じきっている。また、決して許されることのない人生を送らなければならない彼女の父を演じるマルコム・マクダウェルも素晴らしい。


口元をゆるませ、歯を見せて笑うことのない生活を送る3人。彼女たちはみな子供を失った自責の念から自らの感情に重石を乗せているのだ。そして救済を求めて立ち上がったときに初めて笑顔が戻る。ラストシーン、空港で偶然同じテーブルに腰掛けた3人が幼い少女とその父親のやり取りを見て思わず微笑むシーンに、人生の様々な思いが交錯する。そして笑顔でいることの大切さを教えてくれる。


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