こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ウィスキー

otello2005-05-09

ウィスキー WHISKY

ポイント ★★*
DATE 05/5/3
THEATER シネ・アミューズ
監督 ファン・パブロ・レベージャ/パブロ・ストール
ナンバー 55
出演 アンドレス・パソス/ミレージャ・パスクアル/ホルヘ・ボラーニ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


省略の美学。そこにはイマジネーションを掻き立てるような空白を埋めるためのヒントが隠されていなければならない。饒舌になる必要はないが、この作品のようにあまりにも寡黙になりすぎると作家の主張が伝わってこないのだ。解釈は見たものに任せるという姿勢があまりにも強いと、結局何を言いたかったのかわからない。観客の想像力を過大評価しすぎているのではないだろうか。


ウルグアイで寂れた靴下工場を営むハコボは、疎遠になっていた弟のエルマンが帰省してくる間だけ従業員のマルタに夫婦のふりをしてくれと頼む。ハコボとマルタはエルマンの前で夫婦を演じるためにさまざまな工夫をするが、今度はエルマンから旅行に誘われる。


靴下工場での、判で押したような単調な日々の繰り返し。その中でマルタは数十年という齢を重ねてきたのだろう。会話を交わす相手はハコボと従業員のみ。そんな生活を送ってきたマルタに突然降ってわいた非日常。退屈だが安定した生活にエルマンという異分子が紛れ込むことでマルタの心の間口は確実に広がっていく。地味な服装が洗練され、ネックレスや指輪で飾られる。さらには水着まで購入してしまう。エルマンとの出会いはマルタにとって人生を変える出来事だったに違いない。その変化を淡々と演じるミレージャ・パスクアルの苦虫を噛み潰したような表情が素晴らしい。


しかし、エピソードの起伏に乏しく、この程度のことを語るだけで1時間40分も費やす必要があるのだろうか。やたら風景や工場内のシーンをつなぎに入れ間を多く取っているが、上映時間を稼ぐための方便としか思えない。登場人物の心象風景を語るような場面でこそ生きてくるのに、ここまで多用されるとスカスカな印象を残すだけだ。そして何よりかけているのはアイロニーとウィット。独身老人同士の仮装夫婦という、料理の仕方しだいでは輝く素材だっただけに演出家の力量不足が惜しまれる。ただ、次回作は期待できそうだが。。。


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