こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

キングダム・オブ・ヘブン

otello2005-05-21

キングダム・オブ・ヘブン KINGDOM OF HEAVEN


ポイント ★★*
DATE 05/5/14
THEATER 109シネマズ木場
監督 リドリー・スコット
ナンバー 60
出演 オーランド・ブルーム/エヴァ・グリーン/ジェレミー・アイアンズ/デヴィッド・シューリス
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


強烈な宗教的情熱かあくなき富と権力への欲望か。おそらくその両方がヨーロッパの騎士たちを十字軍遠征にかきたてたのだろう。しかし、この作品の主人公がエルサレムに向かった理由は、存在すら知らなかった父が遺した「良き騎士たれ」という言葉と剣のみ。自分自身の強烈な動機もなく遠い地中海の果てに渡っても、覚悟なき者が生き抜いて行けるほど甘い世界だったのだろうか。


フランスの鍛冶職人・るバリアンの元に父を名乗る騎士が現れ、十字軍に誘う。司祭を殺してしまったバリアンは逃亡中に父と合流するが、追っ手との小競り合いで父を失う。遺志を継いだバリアンはエルサレムに向かい、王の夢見る異教徒と共存する街づくりに意欲を燃やす。しかし対イスラム強硬派のテンプル騎士団イスラム隊商を襲い、サラセン軍と全面戦争になる。


主人公にしてはバリアンは寡黙すぎる。最後まで彼が何を求め何をしたかったのかがよくわからない。そもそも剣を握ったこともないような鍛冶屋がいつの間に剣術を身に付けたのだろう。フランス出発からエルサレム到着までの数年の間に鍛錬したのだろうか。また、合戦の経験もないバリアンにエルサレム防衛の指揮を任せるだろうか。高名なサラディンを相手にするほどの高度な戦術や軍事をいつの間学んだのだろう。リドリー・スコットの映像は精緻を極め、衣装から街の造形インテリアや武器の細部にまでリアリティにこだわっている。その反面、主人公のキャラクターは物足りない。


和平派のエルサレム王と軍事顧問のティベリウス、好戦的なテンプル騎士団、そして常に理性的だが断固たる行動も取る英傑サラディン。バリアンは王の理想=父の遺志を実現するために闘う。どうしても現代の中東情勢になぞらえて解釈してしまうのだが、映画に登場する好戦派ばかりがアラブやイスラエルの政治家とダブってしまう。やはりバリアンは主人公としては影の薄い存在だった。


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