こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

クローサー

otello2005-05-30

クローサー CLOSER

ポイント ★★★*
DATE 05/5/21
THEATER 平和島シネマサンシャイン
監督 マイク・ニコルズ
ナンバー 63
出演 ジュリア・ロバーツ/ジュード・ロウ/ナタリー・ポートマン/クライブ・オーウェン
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


好きだから嘘をつく。本当のことを言っているのに嘘だと思われる。そして自分の信じたいものだけを真実だと思い込む。恋なんてたったひとことで簡単に壊れてしまう。それでも誰かを好きにならずにはいられない。言葉と態度、駆け引きと孤独。そこには恋愛はあっても心の底から相手のことを信頼するという愛という感情はなく、表層的なLOVEという言葉だけが踊っている。4人の登場人物が愛しているのはそれぞれのパートナーではなく自分。心にバリアを張った大人たちが、傷つくことを恐れながらも孤独を紛らわせるために他人と交わっていく。


小説家のダンはストリッパーのアリスと付き合っていたがカメラマンのアンナに一目ぼれする。ダンはアンナに振られた腹いせにライブチャットでアンナに成りすまし、ラリーという医師をだます。しかし、アンナとラリーは恋に落ち結婚する。その後、アンナの個展でこの4人が再会したことから、4人の関係が狂い始める。


小説家、カメラマン、医師といった知性や感性で仕事をしている人間は自分をつくろうために小さな嘘を重ねる。その結果、自分の嘘を棚に上げて他人の言葉を信じられなくなる。相手を好きなうちは相手の嘘が自分の期待通りなら許せるのに、一度疑いだすと自分を傷つけるような言葉を引き出すまで執拗に質問する。相手を苦しめ自分も苦しむ。恋の終わりはいつも突然に訪れる。ひとりストリッパーのアリスだけはバカ正直に愛を貫くが、実は彼女も不器用な嘘をついている。本当の自分を偽っていつも違う自分を演じて生きている大都会の男女の繊細な心理がクールなタッチで活写されている。


なかでもラリーは、顔は不細工だが医師という社会的地位とカネをひけらかす俗物根性丸出しの男。一方で言葉と行動で狡猾に立ち回る。本来ならばこのラリーにいちばん嫌悪感を覚えるはずなのに、ダンやアンナのように美男美女の覆面をかぶっていない分だけ格好をつける必要もなく自分のいやらしい部分をさらすところにむしろ好感を覚える。この男を演じたクライブ・オーウェンは見事だった。


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