こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

フォーガットン

otello2005-06-08

フォーガットン THE FORGOTTEN


ポイント ★*
DATE 05/6/4
THEATER 109シネマズ港北
監督 ジョセフ・ルーベン
ナンバー 67
出演 ジュリアン・ムーア/ドミニク・ウエスト/ゲイリー・シニーズ/ライナス・ローチ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


自分の子宮に宿った命を9ヶ月かけて育み、強烈な痛みとともに産み落とす。さらにミルクを与え身の回りの世話をして育て上げたわが子の記憶を母親から消すことができるのか。昨今はやりの記憶・人格障害を扱った映画の中では母親の子供に対する愛情、つまり大脳に蓄積された記憶ではなく肉体に刻まれた記憶を扱うという点では目新しさがある。しかし、その記憶操作をする陰謀の大元は噴飯もの。ほとんど禁じ手に近いこの映画の謎解きはコメディを狙っているとしか思えない。


飛行機事故で最愛の息子・サムを亡くしたテリーはいまだにショックから立ち直れずにセラピーを受けている。ある日、精神科医や夫から「サムなど元々存在せず、テリーの空想」と告げられる。テリーはサムが存在した証拠を探すがすべて抹消されている。そんな時、同じ飛行機事故で娘を亡くしたアッシュという男と知り合う。


寒々とした印象の色調とサウンドデザインは心理サスペンスホラーの王道をいくような描き方。自分が知っていることを周りの他人は誰も知らないという恐怖と不安をジュリアン・ムーアは迫真の表情で演じる。息子の存在が消されていることを知ったとき、その理不尽さに耐えかねて走り出す彼女の愛の強さは母親のみが持ちうるものだ。


しかし、映画に興味を持てるのはそこまで。大体、テリー本人ではなく周囲の人間の記憶や新聞などの記録まで消してしまうなど不可能だろう。途中から国家安全保障局まで介入して、なにやら国家的陰謀を臭わせる。そうかと思えば敵と思われるスパイが跡形もなく消え去ったり、刑事が空中はるかに飛ばされたり。そしてこれらはすべて宇宙人の仕業だったというからあいた口がふさがらない。ミステリーの解決にこんな何でもありのワイルドカードを出されては、まじめに謎解きを考えた自分がバカに思えてくる。確かに衝撃的だが、強烈な肩透かしを食ったような気分にしかならない。ラストシーンのサムは宇宙人に似ていたが、これはサムの父親は実はこの宇宙人だったという冗談のようなオチなのだろうか。


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