こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

大いなる休暇

otello2005-06-15

大いなる休暇 LA GRANDE SEDUCTION


ポイント ★★★
DATE 05/3/25
THEATER メディアボックス
監督 ジャン・フランソワ・プリオ
ナンバー 36
出演 レイモン・ブシャール/ディビッド・ブータン/ブノワ・ブリエール/ピエール・コラン
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


誇りを持って生きる。男にとってそれは仕事を持ち、自分の稼ぎで家族を養うこと。失業手当を受け取るたびに、プライドは傷つけられ生きる気力を無くしていく。そんな仕事もないような寂れた島に生きる人々。それは田舎暮らしが決してバラ色ではないという現実を突きつけ、見せ掛けのスローライフの貧しさをリアルに再現する。労働に従事しその対価として金銭を得ることが人間にとっていかに大切かをさりげなくこの作品は訴える。


カナダ北部の小さな島に工場誘致の話が持ち上がるが、それには医師の常駐が条件。村の人々は知恵を絞って医師を島に招き、彼に島を気に入ってもらえるようにあの手この手で“住みやすいところ”を演出する。やがて医師は島を気に入るようになるが、新たな問題が持ち上がる。


医師を村に居つかせることが工場を誘致し、ひいては職を得ることにつながる。だから村人は一丸となって素晴らしい村人を演じる。彼らのひたむきさは理解できるのだが、少し大げさになりすぎている。たとえば毎日道に紙幣が落ちていてそれを医師が拾う。また、医師につりの楽しさを教えるために用意した魚が冷凍のままだったり、盗聴している電話が急に混線したり。コメディとしても落ちがミエミエだし、ここまでやったら普通気づくだろうというツッコミを入れたくなる。そのあたりのディテールをもう少し緻密に組み立てなければ共感は得られまい。


それでも悪人が一人も登場せず、ゆったりと流れる時間の中で都会暮らしに少し疲れていた医師が自分に合った暮らしを見つけていく過程は心温まる。生活に追われるような暮らしから、村人とのふれあいに満ちた生活。何より自分が誰かに必要とされていることの充足感。一日の労働で疲れた夫を家で食事の用意をして待つ妻。そして夜の営み。人間にとって何が幸せな生活か、この作品はラストシーンで競争社会のアンチテーゼを強烈に投げかける。


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