こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

マラソン

otello2005-07-08

マラソン

ポイント ★★★
DATE 05/6/17
THEATER 新宿厚生年金会館
監督 チョン・ユンチョル
ナンバー 73
出演 チョ・スンウ/キム・ミスク/イ・ギヨン/アン・ネサン
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


知的障害者は決して純粋な心の持ち主ではないし、障害を持つ子を育てる母もいつも大きな愛を持ちつづけているわけではない。それでも世間の風当たりと戦いながら障害者の自立を促す何かを心に植え付けなければならない。この作品の場合、42.195キロのフルマラソンを完走すること。「がんばらない自分」を肯定するような風潮が幅を利かせている中、夢中で走ることでしか自分を表現できない知的障害をもつ主人公がとても新鮮に映る。


自閉症のチョウォンは母親の庇護の下で生きているが、10キロ走の大会で健闘したことから走ることが大好きになる。母親は元マラソン選手にコーチを頼みフルマラソン出場を目標にトレーニングをはじめる。しかし、いつしか母親は自分の愛がチョウォンの自立を阻害していることに気付き始める。


チョウォン自身にがんばるという思いが希薄なのがよい。一生懸命がんばるという意思自体が彼の心の中になく、ただ走っているのが楽しいから走っている。グラウンドを100周走れといわれればふらふらになっても走り、ロードレースではペースを考えずに飛ばす。肉体的な苦しさを超えた走ることへの本能的な渇望。そこに精神論を挟まないというより、精神論が入り込む余地がないチョウォンの障害が神々しく見える。


元有名ランナーのコーチがチョウォンと母の必死さに打たれて自分もまた人生に対して前向きな姿勢を取り戻すとか、母親の愛がチョウォンに不思議な力を与えるなどという押し付けがましい演出もない。むしろコーチは「マラソンを完走したからといってチョウォンの障害は何も変わらない」と言うし、愛の押し売りに気付いた母もチョウォンを走らせまいとする。それでもチョウォンは走ることをやめない。深く考えない、くよくよ悩まない。そんな彼の障害はむしろ長所のように思えてくる。走ることが好きだから走る。チョウォンを見ているとそれだけのことがとても素晴らしいことに思えてくる。


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