こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ヒトラー〜最後の12日間〜 

otello2005-07-15

ヒトラー〜最後の12日間〜 DER UNTERGANG

ポイント ★★★★
DATE 05/7/11
THEATER シネマライズ
監督 オリヴァー・ヒルシュピーゲル
ナンバー 84
出演 ブルーノ・ガンツ/アレクサンドラ・マリア・ララ/コリンナ・ハルフォーフ/ユリアーネ・ケーラー
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


もはや状況が好転することのない八方塞がりの苦悩。そんな時、絶対的な権力を握っている男の取る態度はもはやこっけいですらある。かつて忠誠を誓ったはずの部下をまとめる求心力はなく、妄想と猜疑心にとらわれた言動は嘲笑の対象になっている。そんな中、裏切る者、あきらめる者、最後まで絶対の忠誠が揺るがない者など、もはや負け戦は決定的となった中でさまざまな立場の人間が自分の身の振り方をめぐって右往左往する姿は、人間の真実を暴き出す。ただ、そんな中でも登場人物はすべて「ドイツ人の誇り」だけは失っていないところが心を打つ。


'45年4月、ベルリンはソ連軍に包囲されもはや陥落寸前。ドイツ軍は反撃する装備も指揮もなく退却を繰り返すばかり。それでもヒトラーは現実を見ようとせず師団を動かそうとする。やがてソ連軍の包囲が狭まり、ヒトラーと側近たちは地価深い防空壕に司令部を移す。しかしそこでもヒトラーは徹底抗戦を主張する。


映画は大げさな表現を拒否し、絶望的な状況に置かれた人々の人間的な感情をリアルかつ冷徹に描く。唯一芝居がかった言動を取るのがヒトラーだ。常に指先が振るえ、落ち着きのない視線はもはやカリスマ性のかけらもない。部下に見限られ孤独を深めていく姿は哀れですらある。降伏を受け入れず自決を選び自分の遺体を跡形もなく焼かせるのはかつての独裁者最後のプライドなのだろう。その姿をブルーノ・ガンツは狂気の一歩手前で踏みとどまるような計算された冷静さで演じている。


ヒトラーの側近たちで最後まで忠誠を貫いたゲッペルズ夫妻の意思と行為は崇高なまでに美しい。他の側近・軍人が自決するのは自分の誇りを守るためなのに対し、ゲッベルズ夫妻はヒトラーの最後を見届けて遺言を実行した上で、自分たちの子供を毒殺した後に自決する。その決意には一片の揺るぎもなく、自分の人生をかけたヒトラーという存在に殉ずることに達成感すら感じているかのようだ。特に妻は子供の毒殺を実行し夫の銃弾に倒れるときも、その鋼鉄の意思を目にたたえている。彼女のような女性が銃後を守っていたからこそナチスドイツは欧州を征服できたのだろう。


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