こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

姑獲鳥の夏

otello2005-07-20

姑獲鳥の夏

ポイント ★★
DATE 05/6/16
THEATER ヘラルド
監督 実相寺昭雄
ナンバー 72
出演 堤真一/永瀬正敏/阿部寛/宮迫博之
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


原作の持つ幽玄な世界を見事に映像化している。登場人物の作りこみだけでなく背景や小道具などのディテールにいたるまで、京極堂ワールドそのものといっていい出来栄えだ。しかし、膨大なボリュームを持つ原作を映像化するには2時間程度の上映時間ではとても足りず、結局駆け足でストーリーをなぞっただけという印象は拭いきれない。京極堂の謎解きに力が入れば入るほど映画は説明的になってしまい、ゲスト出演している原作者自身が足かせとなっている。


産婦人科医の娘が20ヶ月も妊娠しているのに出産しない上に彼女の夫が失踪するという事件が起きる。その件で京極堂に相談に訪れた作家の関口は事件の異常さに頭が混乱する。その後探偵の榎木津のもとをたずねた関口はそこで涼子という美しい女と出会う。涼子は20ヶ月妊婦の双子の姉だった。


原作を読んでいないとほとんどストーリーの展開についていけないだろう。何より観客と同じ立場で事件解明に臨まなければならないはずの関口の影が薄い。元々事件の裏の裏まで見通している京極堂や榎木津ならば理屈は要らないだろうが、奇奇怪怪な事件を「この世に不思議なことなど何もないのだよ」という京極堂のセリフがうそ臭く聞こえてしまう。クライマックスの京極堂自身の謎解きも、活字ならば説得力を持つ言葉も映像にしてしまうととたんにリアリティを失ってしまう。そこでは京極堂の饒舌は映像の不作となって言葉だけが空回りしている。


映画化するというのは原作に忠実である必要はあるまい。もちろん小説の雰囲気そのままを再現した映像、特に眩暈坂や書庫、壮麗な外観の屋敷などのセットは息を飲むほど美しい。その舞台で繰り広げられる物語をきちんと脚本の段階から映画用に練り直さなければ気の抜けたぬるいビールのようになってしまう。小説ならわからないところは後戻りして確認できるが映画はできない。そのことを脚本家はきちんと認識すべきだろう。


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