こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

皇帝ペンギン

otello2005-07-29

皇帝ペンギン LA MARCHE DE L'EMPEREUR


ポイント ★★★*
DATE 05/7/27
THEATER 池袋シネマサンシャイン
監督 リュック・ジャケ
ナンバー 92
出演
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


地平線の彼方まで続く行列、大地を埋め尽くすおびただしい群、酷寒の猛吹雪の中でひたすら立ちすくす姿。南極という特異で厳しい自然環境の中で独自の進化をとげた皇帝ペンギンの一年をカメラは丹念に追う。行進の途中で脱落するもの、交尾相手を見つけられないもの、子育てに失敗するもの、飢餓に耐えかねて倒れるもの、アザラシの牙にかかるもの・・・。大自然の猛威と、それを乗り越えるための生活パターンを確立し守り続ける本能の頑固さ。DNAに刷り込まれた記憶を忠実に実行するペンギンたちの生活はシンプルで愛に満ちている。


繁殖シーズンを迎えたペンギンたちは渓谷に集まり求愛ダンスを踊る。やがてメスは産卵、卵をオスに託してはるか離れた海に餌を採りに行く。オスたちはその間何も食べずに卵を温め、雛がかえるのを待つ。ブリザードに襲われても卵を抱き続け、やがて雛が生まれる。オスたちはわずかに胃の中に残った食べ物を雛に与えメスの帰りを待つ。そして3ヶ月、もはや力尽きる寸前でメスが戻り、子育てを交代する。


巣作りをしないせいで抱卵している間動けないという不自由を乗り越え、ひたすら卵を守り続けるオスの姿は毅然として美しい。子の命を育みいとおしむその姿とは対照的に、雛は弱々しく命ははかない。ほんのわずかな間親の足元を離れただけで凍死してしまう残酷さの中で、生き残ったものはたくましく育っていく。そして親の足元からのぞかせる顔の愛らしさは、生命の美しさと奥深さを雄弁に物語る。


やがて雛は3ヶ月ほどで大きくなり独り立ちのシーズンを迎える。羽毛は抜け落ち顔の模様は変わり、精悍な成鳥に近づいていく。そして繁殖できるようになるまでの4年間を海で過ごす。南極が孤立した世界になって以降、延々と繰り返されてきた種を保存するための生命の儀式。そこで暮らすために究極の生活様式を身につけた皇帝ペンギンに、あらためて生命の神秘を思う。


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