こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

亡国のイージス

otello2005-08-03

亡国のイージス

ポイント ★★
DATE 05/7/30
THEATER 109シネマズ木場
監督 阪本順治
ナンバー 93
出演 真田広之/寺尾聰/佐藤浩市/中井貴一
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


どうしてもっとストーリーを整理し描くべきテーマを明確にしないのだろう。イージス艦という閉鎖空間で圧倒的火力を持つテロリストたちと知略で戦う「ダイ・ハード」的なアクションに徹すればいいものを、日本の国家としてのあり方を議論する官僚ややテロリストに協力する自衛官などのエピソードを盛り込んだためまったく散漫な映画になってしまった。膨大な量をもつ原作の表層をなぞるだけという日本映画の悪しき習慣がここでも露呈している。


イージス艦いそかぜがテロリスト集団に乗っ取られる。テロリストたちは日本政府にさまざまな要求を出し、拒否されれば高性能科学兵器を東京に散布すると脅迫する。テロリストたちの動きを事前に察知していた防衛庁のスパイ・如月と専任伍長・仙石はいそかぜ艦内でテロリストたちと戦う。一方で日本政府は首都滅亡を避けるため、テロリストをいそかぜもろとも殲滅する作戦に出る。


原作中の膨大な登場人物をすべて登場させたせいで、主人公のはずの如月の影が薄い。如月こそが防衛庁が作り上げた殺人マシーンの傑作なのに、その戦闘能力を発揮する場面がほとんどない。彼は細く小さな体に似合わぬ抜群の体術と武器電子機器の扱いに精通し、どんな危機的状況でも冷静に対処できるように感情を殺した兵器。その上で人情派の専任伍長と共闘するうちに人間的な感情を思い出す、という展開にすべきではないか。もう少し如月の見せ場を用意しなければ、ただのやせっぽちのアンちゃんにしか見えない。


そして、日本政府首脳が集まって何も決められず右往左往するというお決まりのシーン。こんなものに時間を割くくらいなら、いそかぜ艦上でのアクションを描くべきだ。艦の隅々まで知り尽くしている仙石が如月と協力してあちこちにトラップを仕掛け、テロリストをひとりずつ狩っていく中でふたりに友情が芽生える。そんな物語にすれば娯楽として洗練されたものになったはず。長大な原作を映画化するときは「ボーン・アイデンティティ」を手本にすべきと脚本家は肝に銘じる必要がある。国家としての日本のあり方を論ずる前に、映画としてのこの作品のあり方をもっと煮詰めるべきだった。


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