こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

容疑者 室井慎次

otello2005-08-31

容疑者 室井慎次

ポイント ★★★
DATE 05/8/27
THEATER 109シネマズ木場
監督 君塚良一
ナンバー 104
出演 柳葉敏郎/田中麗奈/哀川翔/八嶋智人
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


キャリア警察官といっても所詮は警察機構という巨大な組織の一員に過ぎず、組織に属している以上は出世争いや派閥抗争は避けて通れない。事件そのものよりも、その背後にうごめくキャリア同士の足の引っ張り合いという着眼点が新鮮だ。世間で起きている犯罪などそっちのけで失敗のなすりつけあいと保身に走るキャリア警官。彼らには現場で働くノンキャリ刑事の苦労や治安維持という警察官本来の目的はなく、ただ身内での昇進だけを考える卑小な役人として描かれる。


新宿路上で起きた刺殺事件の被疑者である警官が取調べ中に逃走、事故死する。その際、被疑者が暴力を振るわれたことが大きく扱われ、事件の指揮を執った室井は責任を負わされた上、遺族から刑事告訴されて逮捕される。その裏には次期警察庁長官を目指すふたりの副長官の間の出世競争が絡んでいた。一方、駆け出しの弁護士が室井の弁護を引き受け、拝金主義の弁護士と全面対決する。


人間・室井慎次を描こうとしたところが好感を持てる。シリーズを通じて、いつも無口で眉間にしわを寄せ何かを我慢している。東大卒が幅を利かせる組織でひとり地方の国立大卒というコネも情報も乏しい立場で、孤軍奮闘して正義の正論にこだわる男。若き日の恋の蹉跌まで今回は披露。自らの出世よりも愚直なまでに筋を通そうとする不器用で孤独な男の生き様を、柳葉は目をむき頬の筋肉を細かく動かすという器用でわかりやすい演技で熱演している。


だからこそ余計に八嶋智人扮する灰島という拝金弁護士のキャラクターのミスキャストが目立つ。常に携帯ゲーム機を手放さず情緒不安定な子供のような性格なのに、頭脳は明晰で弁が立ち法に精通している。漫画チックでリアリティのかけらもない。坊ちゃん刈りの八嶋が法律のトリビアを披露して笑いを取ろうという狙いは失敗、映画のトーンを完全に壊してしまった。さらに警察署内で擬似裁判のようなものが開かれるが、ここまでやると荒唐無稽。室井にだけ焦点を当てるべきだった。


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