こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

メトロで恋して

otello2005-09-05

メトロで恋して CLARA ET MOI


ポイント ★★*
DATE 05/9/1
THEATER BUNKAMURAル・シネマ
監督 アルノー・ヴィアール
ナンバー 107
出演 ジュリー・ガイエ/ジュリアン・ボワウリエ/ミシェル・オーモン
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


男は地下鉄で偶然前の席に座った女に言葉を送る。話し掛けるのではなく、ノートに誘いの言葉を書いて。女もノートに走り書きした言葉を返す。文字と文字のやり取りで始まるいかにも恋の楽しみ方を知っているパリの男女の出会いは、ファッション誌のグラビアを見ているようだ。そして初めてのデート、セーヌ河畔で踊り、歌うふたりの描き方は洗練されていて目と耳を楽しませてくれる。しかしそれは前半だけ。身勝手な男の理論に映画は振り回される。


結婚願望の強いアントワーヌはメトロでクララに一目ぼれ。ケータイの番号をゲットした彼は早速デートに誘い、彼女こそ運命の女性と信じる。しかし、クララのほうは自分に話ばかりするアントワーヌをいまいち愛しきれない。そんな時、クララは体調を崩し、病院にいくとHIV感染を告げられる。


アントワーヌを中心に、クララ、友人、そして彼の父親と会話中心に物語は進行する。恋人の言動を深読みしたり、自分の気持ちがわからなくなったり。そこには32歳の男の等身大の悩みが描かれる。それは役者という不安定な職業、逆にいうと売れていないがゆえに時間的な拘束があまりない男の自己チュー願望のオンパレード。人生のモラトリアムをずっと続けていたいアントワーヌの甘えた考えばかりが強調される。更にクララのエイズ感染を知るとさっさと距離を置く始末だ。


結局、長く会っていなかった父親に人生の機微を諭されて、アントワーヌは本当に大切なものはクララであることに気づく。たとえHIVキャリアでも彼女と人生を共にする決意をする。だが、そこにも別れたときと同様、真剣に考えた結果の決心には見えないのだ。軽い男の軽い人生観、そんな男でも不治の病に侵され、いつ発症するかわからない不安にさいなまれながら残りの人生を過ごさなければならないクララにはありがたいだろう。ただ、アントワーヌの変心は真実の愛からは程遠いような気がしてならない。


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