こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

クレールの刺繍

otello2005-09-09

クレールの刺繍 BRODEUSES


ポイント ★★
DATE 05/9/5
THEATER BUNKAMURAル・シネマ
監督 エレオノール・フォーシェ
ナンバー 109
出演 ローラ・ネマルク/アリアンヌ・アスカリッド/マリー・フェリックス/ジャッキー・ベロワイエ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


抑制の効いた寡黙な映像は、観客すら拒絶するかのようにほとんど語らない。少女と中年女性の互いに心の壁を高くした孤独な女同士が、最悪の状態にある自分の人生から立ち直る物語なのは理解できる。しかし、ふたりとも積極的には他人と打ち解けようとしない状況では、表情から感情の揺らぎを見出すことはできない。爪で黒板を引っかくような弦楽器の奏でる音楽がヒロインの心象を表現しているのだが、感じられるのは妊娠した女性を襲う苛々したとげとげしい心だけ。言葉も少なく、表情にも乏しい。そこから汲み取れる物語性はきわめて希薄だ。


17歳のクレールは妊娠中でお腹のふくらみが目立ち始めている。産院で「匿名出産」という制度を利用して産んだ子を養子に出そうとしている。ある日、息子を交通事故で亡くしたばかりの刺繍職人の元を訪れ、自分の刺繍の腕前を披露したところ、手伝いを頼まれる。そしてふたりの共同作業が始まる。


スーパーのレジ係同士のトゲのある言葉のやり取りや、母親や友人との会話は奇麗事ではないリアリティにあふれている。特に、クレールが友人宅に泊まったとき、その友人が洗面台に腰掛けておしっこをするシーンには驚いた。いくら気の置けない女同士とはいえ、友人の目の前で洗面台に用を足す行儀の悪さ。興味深いが、年頃の少女に対して大いに幻滅するシーンだ。こんなことを平気でする女子は日本人にも多いのだろうか。


そういった周辺部分のディテールには凝っているのに、肝心のヒロインふたりの造形は極力抑えている。そして致命的なのは刺繍の精緻な美しさとそれを織り成す職人芸が見られないことだ。職人の手から魔法のように生み出される美しくも繊細な模様の、高貴な美しさをどうしてもっと見せないのだろう。それはきっと俳優よりも饒舌にヒロインたちの心情を語ったはずなのに・・・。せめてクレールのお腹の父親が、刺繍職人の死んだ息子だった、というくらいのオチは欲しかった。

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