こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

メゾン・ド・ヒミコ

otello2005-09-16

メゾン・ド・ヒミコ

ポイント ★★★
DATE 05/9/11
THEATER チネチッタ
監督 犬童一心
ナンバー 113
出演 オダギリジョー/柴崎コウ/田中泯
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


家族を捨てたオカマの老後は寂しい。だからこそ寄り添って生きる。迫りくる死の恐怖に怯えながらも本心を隠して明るく振舞っている。そんなオカマたちが共同生活する海辺の邸宅の凛としたたムード。人生の喜びも悲しみもすべて受け入れ、来る者をやさしく包み込む。青空を背景に屹立し海を遠景にたたずむこの建物こそこの映画の主人公だ。


一人暮らしのOL・沙織はカネに困っていたが、ある日自分を訪ねてきた春彦という男から自分を捨てた父が末期がんで余命少ないことを知る。沙織は父のいる養護施設で働くことにするが、そこは年老いたオカマたちが共同生活するホームだった。春彦は父の恋人で、ホームの全般を仕切っている。やがて沙織はホームの老人たちと心を通わせていく。


ほとんど海辺の屋敷内で物語が展開するため空間的な広がりがなく、人物を多く登場させることでフィルムの空白を埋めているように感じる。もちろん、オカマであることをカミングアウトするか隠して生きるかの葛藤も描かれているが、肝心の沙織と父親の間のわだかまりを溶く過程は山場に乏しく、春彦のゲイ心理にも説得力が乏しい。特に沙織とのラブシーンでは春彦が行為を途中でやめてしまうが、このシーンなど春彦が新しいパトロンのジイサンと寝るシーンがなければ生きてこないではないか。オダギリジョーのラブシーンの相手は柴崎コウではなく、老人であるべきだ。そうすることでオカマの生理がより強調され、映画すなわちオカマに対する理解も深まったはずだ。


結局、沙織は自分の会社の社長と寝て、春彦はそのことを知る。春彦は社長をうらやましがることで沙織に自分の気持ちを伝える。女の体は愛せないけれど、心は愛せる。そんなオカマの優しい気持ちを象徴するシーンだ。社会的に偏見を持たれ世界の片隅でひっそりと生きなければならない。惜しむらくはオダギリが汚れのイメージがつくくらい思い切った役作りをして、性的マイノリティの切なさを表現してほしかった。


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