こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

亀も空を飛ぶ

otello2005-09-30

亀も空を飛ぶ


ポイント ★★★*
DATE 05/9/27
THEATER 岩波ホール
監督 バフマン・ゴバディ
ナンバー 118
出演 ソラン・エブラヒム/ヒラシュ・ファシル・ラーマン/アワズ・ラティフ/アブドルラーマン・キャリム
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


戦争が日常となっているクルド人の村で暮らす子供たち。武器や地雷が生活に深く入り込み、手足のない子供も少なくない。イラク戦争を挟んで、戦争による心の傷を癒すことができない子供と、たくましく生きる子供たちの抑えたタッチでエピソードを重ねていく。子供であることや身障者であることは言い訳にならず、だれもが生きるために働かなければならない。そこには絶望的な過去と希望的な未来が混在し、背負った悲しみが大きい者ほど希望が持てず、未来を悲観する。


イラク・トルコ国境のクルド人村で子供たちのリーダー・サテライトは便利屋として村を仕切っている。ある日、幼児を連れた難民兄妹が流れてくる。両腕のない兄は予知能力を持ち、幼児はイラク兵に強姦された妹が産んだ子供だった。サテライトはこの兄妹に惹かれていく。


腕や足を地雷で失った子供がいかに多いか。彼らはその不運を嘆く暇も与えられず現実を受け入れ、地雷を掘り薬莢を運ぶ。大人の男たちは援助に頼り働かないものが多い。サテライトをはじめ、ほとんどの子供たちは両親がいないようだ。それでも何の屈託もない。彼らの姿はこの地域の明るい将来を象徴しているようだ。


その一方で、悲惨な運命から逃げられない難民兄妹。兄は自分の予知能力が家族に不幸を呼んだと信じ、妹は暴行の過去に心を閉ざしつつも自分の子供の面倒を見なければならないという現実から逃げることができない。サテライトが懸命に働きかけてもついに2人は過去に閉じこもったまま。地雷原に迷い込んだ幼児を命がけでサテライトが救ったのに、結局幼児は母親の手にかかって命を落とす。限界値を超えた悲惨な体験をしてしまった人間は心を捨てて生きなければならない。人間が乗り越えられる悲劇と克服できない絶望の間には紙一重の壁がある。サテライトら村の子供と難民兄妹の姿を通して、その壁を一度越えてしまうと二度と元に戻れないということをしみじみと感じさせる。


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