こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

蝉しぐれ

otello2005-10-07

蝉しぐれ

ポイント ★★★
DATE 05/10/2
THEATER 109シネマズ港北
監督 黒土三男
ナンバー 122
出演 市川染五郎/木村佳乃/緒方拳/原田美枝子
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


十数本も畳に突き刺した刀、胸を斬られて噴水のように吹き出す血、そして一太刀で勝負がつく1対1の果し合い。藤沢周平原作の海坂藩下級武士シリーズも東宝が映画化すると黒澤明調がたっぷりだ。しかし、主人公は剣はたつが三船が演じる迷いのないようなスーパーヒーローではなく、派閥争いや理不尽な上司の命令に従わなければならないサラリーマンのような武士。ただ、市川染五郎の演技は深みがなく、また話題性を狙ってお笑い芸人を起用したため、軽くなってしまった印象は否めない。


下級武士の息子・文四郎は、父がお家騒動に巻き込まれ切腹させられた後は貧しい生活を送ってきた。ある日、藩主に輿入れした幼なじみのふくが、赤子を抱いて隠れ家に潜んでいると耳にする。文四郎の上司は彼にふくの子をさらって来いと命令する。ふくのことを思いつづけていた文四郎は2人の親友に相談する。


山田洋次作品と差別化するために、あえて主人公・文四郎の少年時代を細かく描いている。ふくとのほのかな恋や剣術仲間との友情など、いつの時代も変わらない大人の事情を知る前のまっすぐな心をもつことができた時間。また、成人後もかつて父を切腹に追い込んだ家老の元で働く姿をうつろいゆく四季の変化を丁寧に描くことで、何事も起きない平和で平凡な人生の素晴らしさを語りかける。このあたりのカメラワーク、編集のセンスはすばらしい。


しかし、恋や友情に軸足を置いてしまったため、剣劇シーンは大味だ。もちろん人を斬った事のない侍同士のヘッピリ腰な斬りあいはそれなりのリアリティはある。それでも文四郎と刺客の一騎打ちは、小手先でごまかすのではなく手に汗握るような殺陣を用意するべきだろう。せっかく黒澤へのオマージュを捧げているのなら、文四郎の一太刀にもっと緊張感を込めて欲しかった。


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