こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

カーテンコール

otello2005-11-21

カーテンコール

ポイント ★★★
DATE 05/10/4
THEATER メディアボックス
監督 佐々部清
ナンバー 123
出演 伊藤歩/藤井隆/鶴田真由/奥貫薫
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


ノスタルジーを誘うセピア調の映像の中で展開する夫婦の愛と家族の絆が細やかだ。特に、舞台で芸を披露する男を見つめる妻と子供、親子3人がベンチに並んで腰掛けて弁当を食べるシーンの暖かさは心に染み入る。また、失われてしまった父と娘の関係をもう一度手繰り寄せるために現在と過去が交叉する構成は、きちんと色分けして整理されていてわかりやすい。街の映画館が全盛期だった40年前とさびれゆく現在を対比させ、時代の趨勢を切り取り哀切を漂わせる丁寧なカメラワークが映画を引き締める。


情報誌の記者・香織はある日、映画の幕間に芸を見せる「幕間芸人」が人気を誇っていたことを知り、取材を始める。下関の映画館・みなと劇場を訪ねた香織はそこで安川という幕間芸人がいたことを突き止める。消息をたどるうちに、安川は妻を亡くした後一人娘を捨て韓国に渡っていた。やがて香織は安川が捨てた娘・美里にたどり着き、美里に会いに行く。


女性ライターが幕間芸人の消息をたどるうちに一組の家族の秘密に触れ、自分もまた父親との距離を見直すという物語の骨格に、在日朝鮮人差別を絡めた脚本は匙加減が絶妙。当事者ではなくライターという第三者の目を通しているため、崩壊した家族の歴史を客観的に見られるのだ。前半の老女の甘い記憶と後半の捨てられた娘のつらい記憶はトーンががらりと変わるが、そこも香織の私生活を描くことで違和感を取り除いている。下関という今も昭和の風情を残している街を舞台にしたからこその味わいだ。


しかし、香織はどうして安川の心情に迫らなかったのだろうか。せっかく居場所を突き止めたのだから、幕間芸に対する彼なりの思いを語らせるべきではないか。そうすることで芸が飽きられた後や娘を捨てなければならないシーンが生きてくるはずだ。最終的には安川父娘は和解するのだが、そこもあえてさらりと描き感情の押し付けはしない。欲をいえばもう少しクライマックスといえるような山場を映画の後半に用意して欲しかった。


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