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映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

二人日和 ・・老夫婦の相互理解

otello2005-12-07

二人日和

ポイント ★★★*
DATE 05/12/5
THEATER 岩波ホール
監督 野村惠一
ナンバー 150
出演 藤村志保/栗塚旭/賀集利樹/山内明日
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


年老いた夫婦に「愛する」などという情熱的な感情はもはやない。ただ自分と生活をともにする異性という存在、しかし空気のようにお互いになくてはならない関係になってしまった二人。言葉にしなくても相手の考えていることがわかる反面、言葉にしないことで相手のわからないことが増えていく。一方で今更昔のような愛情は持てないけれど依存度は高まっていく。そんな、年齢と歳月を共に重ねたカップルだけが持つことが出来る微妙な人情の機微を、京都の古い街並みと伝統工芸職人のガンコさを携えて繊細に描ききっている。


神官の装束仕立て師・黒由は妻の千恵と二人暮らし。千恵の体は筋萎縮症に侵され日々衰えていく。ある日、黒由は千恵のリハビリになるとマジックの得意な青年を家に連れてくる。沈みがちな千恵の表情が青年のマジックを見ているときだけは輝くようになる。しかし、千恵の症状は進行し入院を余儀なくされ、黒由も店をたたむ決意をする。


自分の仕事だけに邁進し妻の気持ちには見向きもしなかった男が、妻の人生の最期になって初めて彼女の気持ちを知る。それはコミュニケーション不足から来る妻の不満。千恵の日記を盗み見て黒由は初めて彼女の本音を知る。昔は一緒にタンゴを踊ったのに今は当たり障りのない会話だけ。自分では自分のことを良い夫であると確信していた黒由にとって衝撃的だっただろう。そのあたりの夫と妻のギャップが日常会話の中からかもし出され、物語にリアリティを与えている。


また、老夫婦の介護話に若いカップルを絡めることで、辛気臭さを払拭することも忘れていない。マジックの青年もまた恋人より研究の道を選ぼうとするが、恋人に対して「待っていてくれ」とか「一緒に来い」という言葉を口にしない。女はいつも愛されているという確かな証拠がほしい。そんな女心がわからない男ふたり。雛人形に託された、黒由が妻の介護と死から得た教訓は青年に伝わったはずだ。夫婦の相互理解だけでなく老人と若者という世代を超えた相互理解をテーマにすえたところが、物語により重層的な奥行きと複眼的視野をもたらすことに成功している。


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