こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ある子供

otello2005-12-21

ある子供 L'ENFANT

ポイント ★★★★
DATE 05/12/15
THEATER 恵比寿ガーデンシネマ
監督 ジャン・ピエール・ダルデンヌ/リュック・ダルデンヌ
ナンバー 156
出演 ジェレミー・レニエ/デボラ・フランソワ/ジェレミー・スガール/オリヴィエ・グルメ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


9ヶ月かけて子宮の中でわが子を育てる女に対し、おなかを痛めない男にとっては生まれてきた赤ちゃんが自分の子であるということの実感は乏しい。わが子の体温に触れ、微笑を交わし初めて父親としての実感が湧くのだ。まして自分自身が大人になりきれていない男が、いきなり自分の生活に闖入してきた赤ちゃんにはすぐに愛情を持てないだろう。体だけは大人だが精神的にはまだ「子供」の男がたどる、愛と人生に対する責任を自覚する軌跡を見守る視線は突き放すような冷たさを持つ。


ブリュノは盗品をさばいて日銭を稼ぐチンピラ。恋人のソニアが出産して赤ちゃんとともに退院するが、迎える家もない。そしてブリュノはソニアに無断で赤ちゃんを売ってしまう。ソニアの怒りを買ったブリュノは赤ちゃんを取り戻すが、逆に借金を抱えてしまう。


決して心根が腐っているわけではない。自分勝手だが、人を愛する気持ちも強い。ただ、自分自身が強く愛されなかったのだろう。思慮が足りないことで悪循環を繰り返して犯罪に手を染めていくブリュノの姿を、カメラは克明に追う。その寒々とした映像はブリュノの心象風景を投影し、自分のしたことのツケを払わされていく過程で少しだけ成長する様子だけは温かく見守る。自分の過去を反省し、愛するだけでなく愛されることも知ったブリュノが流す涙は、大いなる寛容を見るものに示す、この映画で一番美しいシーンだ。


若者を転落させる罠がいかに多いことか。高い失業率と、すべてをカネに換算する価値観。経済成長率といった数字の上では豊かになっているはずなのに、豊かさから取り残された人々が職安に列をなす現実。人間の弱さ、未熟さを描くとともに豊かさから取り残された人々の現実を鋭く描いたこの作品は、最後に善意を取り戻すことで見事なバランスを取っている。


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