こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

愛より強い旅

otello2005-12-25

愛より強い旅 EXILS


ポイント ★★
DATE 05/10/11
THEATER メディアボックス
監督 トニー・ガトリフ
ナンバー 127
出演 ロマン・デュリス/ルブナ・アザバル/レイラ・マクルフ/アビブ・シェック
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


旅の目的とは、目的地に行くことではなく移動する行程そのものが目的だ。見知らぬ人々と知り合い助け合い、苦難を自分の力で乗り切る。その過程で精神的に成長するなり人生の真実に気付いたりと、目的地に着いたときには出発前と別の人間になっている。しかし、この作品の主人公の旅のゴールは何だったのだろう。都会に失望して父の故郷に向かう。そこには現実逃避以外の何物も見出せない。結果として、何も後に残らない旅になってしまった。


パリに住むザノは、恋人のマイナを誘って父の故郷のアルジェリアに向かう。小さな荷物とウォークマンだけを持ってまずスペインに行き、農場で働いたりしながら旅費を稼ぐ。その後、乗り込んだ客船はモロッコに着き、2人は歩いてアルジェリア国境を越える。


大体、これだけ情報が氾濫している時代に何の準備もせずに旅に出るだろうか。費用も少し働くなりバイオリンを売るなりすれば用意できるだろう。なのに列車には無賃乗車、密航しようとした客船は目的地が違う。貧困国からEU域内への密航者や亡命者ならともかく、少し準備すれば簡単に行けるはず。子供でももう少し周到に用意して行動するはずだ。無軌道な若者の突発的な行動、というにはあまりにも幼稚すぎる。結果としてザノとマイナの行動にまったく共感は得られず、ぎすぎすした空気だけが空回りしている。


バイオリンを封印することで音楽を捨てたはずなのに、ザノは「音楽が宗教」と言っていつもヘッドフォンを耳から離さず各地の音楽を体験しようとする。しかし、彼の音楽に対する姿勢も、音楽から何らかの啓示を得ようとしたり、自分の魂を揺さぶる音楽を探しているわけでもない。アルジェリアで父の形見の写真を見つけるが、そこで父の思い出にふけるわけでもない。結局、何が言いたかったのだろう。豊かさにどっぷり漬かった甘ったれた若者の人生が、たった数日ぐらいの旅では変わらないということ言いたかったのだろうか。


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