こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ロード・オブ・ウォー

otello2005-12-27

ロード・オブ・ウォー LORD OF WAR

ポイント ★★★*
DATE 05/12/23
THEATER チネチッタ
監督 アンドリュー・ニコル
ナンバー 160
出演 ニコラス・ケイジ/イーサン・ホーク/ジャレッド・レト/ブリジット・モイナハン
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


レストランが空腹の人間に食事を提供するのと同じレベルで、必要とする人間がいるからと銃や弾丸を売る男。人殺しの道具を売っているという自覚は希薄で、あくまでも金を得るためのビジネスとして割り切る。自分の売ったモノがどういう使われ方をするのかにはまったく関心がない。その倫理観の欠如こそ世界経済の潤滑油として機能しているという皮肉。主人公の、家族の前ではいい夫・いい父親であろうとする一面と、カネという媒介があれば平気で血なまぐさい商売に手を染めることができるという側面を、ニコラス・ケイジは人間くさく演じている。


ウクライナからNYに移住してきたユーリーは、東西冷戦末期に天性の商才を武器売買に生かし、たちまち頭角をあらわす。さらにソ連崩壊でだぶついた兵器を買い叩き、アフリカの紛争地帯で大もうけする。一方で初恋の女性・エヴァとの恋も実らせるが、インターポールの捜査官・ジャックに次第に追い詰められていく。


国際紛争の現場で実際に使われるのは高価な最新兵器ではなく、AK-47といった構造が簡単で故障しにくい自動小銃だ。その現実をこの作品はリアルに再現する。AK-47をいかに安く仕入れ高く売るか、そこがユーリーの腕の見せ所だ。危険な現場にもいち早く現れドルやダイヤで即決済、彼の成功の秘訣を冒険と知略に満ちた軽快なサクセスストーリーのように描くことで、紛争が絶えない現代社会に絶妙の警鐘を鳴らしている。ユーリーは根っからの悪人ではなく、精神を蝕まれた弟と違って想像力が少し乏しいだけなのだ。


そして、大国の権力者の中にユーリーを必要悪と考える人間がいるというだけで、絶対に有罪にならないという事実。真実は決して語られることはなく、虐殺は今も続いている。平和ボケした頭には濃厚なエスプレッソのように強烈な覚醒作用をもたらしてくれる。


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