こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

THE 有頂天ホテル

otello2006-01-20

THE 有頂天ホテル

ポイント ★★★
DATE 06/1/15
THEATER 109シネマズ港北
監督 三谷幸喜
ナンバー 9
出演 役所広司/松たか子/佐藤浩市/香取慎吾
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


アクの強い俳優を使っているせいで、これだけの大人数が出演する群像ドラマなのに人物の交通整理がよくできている。それぞれの役に込み入った事情を持たせ、やや大げさな演技をさせることで個性を際立たせる。そのあたりがわざとらしくなりすぎて笑えないシーンも多いが、全体的には役所広司扮するホテルマンを中心に話がよくまとまっている。ただ、この主人公はあくまで狂言回しの役割に徹したほうが人間模様がより鮮明に浮かび上がらせることができたのではないだろうか。


大晦日、新堂が副支配人を勤めるホテルは新年の準備に大忙し。汚職議員やパーティの主役、ショーの芸人などが次々と事件を起こし、従業員はそれに振り回される。藤堂と部下の矢部はホテル中を走り回ってトラブルを解決していく。


大晦日という特別な一日の異常な状態。みんながみんな、ありえないようなドタバタを繰り広げる中で常に新堂は冷静であるべきだろう。西田敏行扮する大物演歌歌手をはじめ、マン・オブ・ザ・イヤーに選ばれたおっさん、伊藤四郎の総支配人など、悪乗りにしか見えないはしゃぎぶりは見苦しい。笑わせようという意図だけが空回りして、むしろ失笑を漏らしてしまった。ここで新堂だけが笑顔の下でシニカルな視線をたたえていたならば、もう少し引き締まった印象になったに違いない。


冒頭とラスト近く、不特定多数の人間が大勢交差するホテルのロビーを模したセットの中で繰り広げられる小さなドラマは圧巻だ。カメラを自在に動かし、ある人物に迫ったと思うと別の人物をクローズアップする。それをワンカットでとるという気の遠くなるような作業。これらのシーンに、映画監督としての可能性にチャレンジした三谷幸喜の意気込みが凝縮され、日本映画界にユニークなポジションを与えている。


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