こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

単騎、千里を走る。

otello2006-02-03

単騎、千里を走る。 単騎走千里


ポイント ★★★
DATE 06/2/1
THEATER 池袋HUMAX
監督 チャン・イーモウ
ナンバー 18
出演 高倉健/リー・ジアミン/チウ・リン/寺島しのぶ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


人と人のつながりとは何か。子を思う父の一徹な気持ちと、それに応えようとする悠久の大地に根ざして生きる人々を通して、言葉の壁を越えて分かり合えることを丹念に追う過程は、ひとりの老父が成長する旅でもある。言葉が通じない外国人にも子を思う親の気持ちは伝わるのだ。まして、いかに不仲だったとはいえ、実の父子の間で和解できないはずはない。中国の田舎町を舞台に、チャン・イーモウは人間の懐の深さと相互扶助の精神を丹念にカメラに収める。


絶交中の息子が末期がんと知った高田は、息子が研究していた中国の仮面芝居を撮るために雲南省に渡る。しかし、仮面芝居の役者・李は傷害罪で服役中。高田はガイドとともに関係機関を説き伏せ、獄中の李と面会する。しかし、李はもはや歌えなくなっていた。


悠久の大地と中国人の寛大な心がこの作品のテーマだ。日本から来た高田の無理難題に、仕方なく付き合っているうちに、高田の熱意にほだされて積極的に協力するようになる。片言の日本語しか話せないチュー・リンというガイドが、何とか高田の役に立とうと奔走する姿がほほえましくも美しい。中国人の心の底に横たわる思いやりの心が、彼の言動に凝縮されている。そして小さな村で高田のために催される食事会。村人が総出で宴を開き高田をもてなす。中国人の心の広さがスクリーンから染みわたる。


結局、李の息子・ヤンヤンを連れ出そうとして高田は失敗する。それは父親の気持ちを考えることはできても、息子の気持ちに思いが及ばない高田の気持ちを象徴している。会ったこともない父に無理やり合わそうとしても、子供にそんな心の準備はできていない。このシーンで高田は初めて自分の息子の気持ちに思い至るのだ。親子ならなおさら、相手の気持ちをわかったつもりになって自分の気持ちを押し付けてはいけない。そんな簡単なようで複雑な人間の心理の綾を、細い糸を縒り合わせるように紡いでいく映像は深い余韻を残す。


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