こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

クラッシュ

otello2006-02-13

クラッシュ CRASH


ポイント ★★★★
DATE 05/11/30
THEATER シネマート
監督 ポール・ハギス
ナンバー 148
出演 サンドラ・ブロック/ドン・チードル/マット・ディロン/テレンス・ハワード
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


差別が偏見を生み、やがて敵意にまで成長する。それはロサンゼルスで普通に生きている人々が皆心の中に抱えている闇だ。それでも悪党が根っからの悪党ではなく人種差別主義者が使命感に燃えた警官だったりと、人間の持つ多面性を丁寧に描くことでこの世の不条理にまで昇華し、殺伐としたストーリーの中でほんの少し垣間見るやさしさが砂漠のオアシスのような効果を上げている。本当は他人とふれあいたいのに人種という壁を自らの心の中に作ってしまう人間の弱さ。意識していないところで壁が出来てしまっていることの、どうしようもないもどかしさがスクリーンを通じて伝わってくる。


交通事故に巻き込まれた刑事、地方検事夫妻から車を奪った黒人チンピラ、差別主義者の白人警官と黒人ディレクター、ヒスパニックのカギ屋とイラン人雑貨屋といった人々が同じ日に経験する不愉快な事件。それらはすべて人種や出身が違うだけでお互いに理解しようとしない偏見が生んだ出来事だった。


白人のマイノリティに対する差別意識が人々の心に疑心暗鬼を抱かせ憎しみを増長させる。ある程度の地位や財産がある者は本心を隠すことは出来るが、失うものがない者は正直に態度に出す。ぎすぎすした空気が支配し、ちょっとしたきっかけが暴力を生む。それでも登場人物は皆、どこかで人間の心を失っていない。黒人嫌いの警官が交通事故に遭った黒人女性を命がけで救うシーンに人間の多面性を象徴させ、幼女を撃った拳銃が空砲のシーンに神の存在を予感させる。そのあたりの語り口が絶妙で、張り詰めた緊張感が映像を包む。


すべてのエピソードが怒りと憎しみに満ちている。しかし、最後に救いを持たせているところが心地よい。殺された黒人青年すら母のもとに帰るという形で安らぎを得る。負の感情を持つのも人間、しかし本当は善の心を持ち、孤独かみしめているのだ。「人は皆ふれあいを求めている」。冒頭のこの言葉がラストシーンの後に全身に染み渡る。


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