こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

春が来れば

otello2006-03-31

春が来れば


ポイント ★★*
DATE 06/3/27
THEATER シネマスクエアとうきゅう
監督 リュ・ジャンハ
ナンバー 45
出演 チェ・ミンシク/キム・ホジョン/チャン・シノン/キム・ガンウ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


挫折した中年音楽家が中学校の廃部寸前の吹奏楽部を立て直す過程で、自らもまた人生に立ち向かう気力を取り戻すというストーリーには新鮮味はない。主人公は閉塞感にさいなまれているわけではないが、といって夢を見出すにはいたっていない。日常のエピソードを丹念に積み重ねることで劇的な展開よりはリアリティにこだわる姿勢は、感情の起伏に乏しくメリハリがない。ありそうであまりない話を描いてこそ映画からインスパイアされるのに、この程度のありふれた物語では観客の心には届かない。


トランペッターのヒョヌは恋人に去られ、オーディションには落ち続ける日々。ある日、寂れた炭鉱街に音楽講師の職を見つけ、吹奏楽部の顧問となる。あたたかい田舎の人情に触れるうちに、ヒョヌは音楽を通して生徒たちとともに生きる力を取り戻していく。


柱となるストーリーのほかに無駄な要素を挿入しすぎたことが作品をしまりのないものにしてしまった。ヒョヌの再生というテーマに、生徒たちの成長、新しい恋は必要だろう。しかし、ヒョヌの仕事以外の日常生活のディテールや、母親がソウルから訪ねてきたり、生徒の家庭問題にまで踏み込むシーンは冗長。それに、あきらめなければ夢は必ずかなうなどというより、あきらめなければならない夢もあるということを中学生に教えるのはまだ早いだろう。


カメラはヒョヌのそんなひと冬の出来事を淡々と追う。何もかもうまくいかずイライラしがちなヒョヌの心が、街の人々と触れ合ううちに徐々に角が取れていく。音楽だけで生きてきた男が音楽以外の出来事に人生の大切なことを教えられ、再び音楽に対する希望を取り戻していく。しかし、それも音楽教室の講師というレベル。あくまでヒョヌ=映画の温度は低く、その低さがかえってラストシーンの散り行く桜の中で電話をかける彼の姿を鮮やかに際立たせていた。


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