こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

風のファイター

otello2006-04-27

風のファイター


ポイント ★★*
DATE 06/1/10
THEATER シネマート
監督 ヤン・ユノ
ナンバー 5
出演 ヤン・ドングン/加藤雅也/平山あや/
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


拳に宿る力は石を砕き、瞳に宿る強靭な意志はどのような荒行にも耐える。武道家というより求道者として生きた男・大山倍達の壮絶な前半生が描かれる。格闘シーンはリアルを追求し、肉体を鍛錬するシーンはすさまじいまでの執念を描き出す。ただ、本格的に武道家を目指すのが20歳を過ぎてからというのは遅すぎないだろうか。それまで喧嘩に毛の生えた程度の体術しか持たない男がいきなり山ごもりというのも飛躍しすぎている。


朝鮮から日本軍航空兵になろうと下関に密航してきたペダルは、敗戦のどさくさにまぎれて池袋に流れてくる。日本人やくざに屈辱を受け、やがて自分に武道の手ほどきをした知人もやくざに殺されたことから、ひとり山に入り厳しい修行を自分に課す。そして数年後、山を降りたペダルは次々と道場破りを繰り返す。


ペダルという朝鮮人である彼が、何ゆえ大山倍達という日本人名を名乗るようになったのかがすっぽりと抜け落ちている。民族のアイデンティティがテーマではないにしろ、祖国を奪い朝鮮人を差別した日本人は憎いはず。現代のように在日韓国・朝鮮人が生きにくい時代だったのだろうが、日本人武道家ばかりを倒し日本一になることで復讐を果たそうとするならば、日本空手会の重鎮・加藤を倒した時点でどうして日本名を捨てなかったのか。そんなことを考えるよりも、ただ「強くなりたい」という意思だけを強調したいということなのか。


それならば、修行を始めるまでのペダルをこれほどまで時間を割いて描くことはあるまい。前半部分をもっと刈り込み、他流試合を繰り返し「現代の宮本武蔵」として生きた後半部分こそにもっとスポットを当てるべきだろう。空手のみならず、柔道、合気道、剣道、忍術等、他流派の奥義をどんどん自分のものにし、大山流のスタイルと哲学を完成させてこそ映画としてのカタルシスが得られるのだ。題材や格闘シーンは悪くなかっただけに、作品の根本をなす思想があいまいで映画としての軸がぶれてしまっているのが残念だ。


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