こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

戦場のアリア

otello2006-04-28

戦場のアリア JOYEUX NOEL


ポイント ★★★★
DATE 06/2/15
THEATER 角川ヘラルド
監督 クリスチャン・カリオン
ナンバー 23
出演 ダイアン・クルーガー/ギョーム・カネ/ダニエル・ブリュール/ゲイリー・ルイス
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


子供のころからの徹底的な愛国教育で憎むべき敵を殲滅すべしと叩き込まれて戦場に出た兵士も、人間の心まで捨てることはできない。そしてやはりクリスマスイブはキリスト教徒にとって特別な日。敵意も憎しみも封印してその夜ばかりは素直な気持ちに戻る。最前線の戦場で兵士たちが敵味方の別なく杯を交わし歌うシーンには思わず心を打たれた。戦争よりも早く故郷に帰りたい、戦うよりも友達になりたい。そんな兵士たちの本音が奇跡をもたらす。


1914年12月、独仏国境付近は激戦を極め、ドイツ軍とフランス・スコットランド連合軍が対峙したまま硬直状態だったが、クリスマスイブの夜にスコットランド兵の奏でるバグパイプに合わせて独軍のオペラ歌手が歌ったことから休戦協定が結ばれる。三軍は敵味方の垣根を越え、酒を分かち故郷自慢に花を咲かせる。そしてそろってミサで十字を切る。


兵士たちは互いに銃口を向け合っていても、よく知らない相手に恨みを持っているわけではない。国家に刷り込まれた憎しみと、殺さなければ殺されるという理論だけで引き金を引いていただけだ。敵意を消しほろ酔い気分になればひとりの人間に戻る。英仏独語が入り乱れ何とか相手を理解して相手に理解させようとする姿は、平和を叫ぶどんな立派なスローガンよりも心に響く。特に独軍指揮官が戦前新婚旅行でパリに行った話は、平時の交流を国家が踏みにじる残酷さを克明に物語る。


やがて前線で育まれた友情は各軍ともに上層部の知るところとなり、それぞれの指揮官と兵士は処分を受ける。しかし、彼らの中で誰一人として敵と交わした友情を後悔している者はいない。それどころか戦う意欲を失っているのだ。この作品に描かれたエピソードなど、所詮は甘ったるいおとぎ話なのかもしれない。それでも人間の理性を信じようとするヨーロッパ人の成熟した思想が作品を底辺から支え、心地よい涙を誘ってくれる。


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