こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ブロークン・フラワーズ

otello2006-05-05

ブロークン・フラワーズ BROKEN FLOWERS


ポイント ★★
DATE 06/5/1
THEATER チネチッタ
監督 ジム・ジャームッシュ
ナンバー 64
出演 ビル・マーレー/ジェフリー・ライト/シャロン・ストーン/ジェシカ・ラング
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


年老いたプレイボーイが1通の差出人不明の手紙をきっかけに自分の人生を見直していく。彼が過去に交際した女性たちを突然訪ね、手紙に書かれた真実について確かめていく過程は程よいペーソスがまぶされ、人間の心という迷宮に観客をいざなう。しかしそこはきらびやかな迷宮というより何の効能もないぬるま湯の銭湯。まったりと身を浸しているだけで倦怠感が蓄積し、物語自体が「やおい」レベルに堕ちてしまっている。


恋人に去られたばかりの独身男・ドンのもとに「19歳になった息子があなたを探しに行く」というピンクの匿名手紙が届く。ドンは友人の助けを借りて、20年前に付き合っていた5人の女性に再会する旅に出る。


作品に余韻を残し、想像力をかきたてるような語り口を否定はしないが、問題を提起しておきながら何の糸口も残さないのは観客をバカにした話だろう。手紙の差出人は誰だったのか、死んだ一人を除いては4人すべてに何らかの動機を残し、どうにでも取れるような展開。ドン自身も気の重い旅に乗り気ではなく、再会しても喜ぶわけでもなく気まずい雰囲気だけが残る。付き合っていたころは言えなくても今なら言える秘密を告白して、ドンや女たち自身の人生を顧みる訳でもない。そもそも差出人は何らかの見返りを期待しているはずなのだから、訪ねてきたドンを歓迎するはず。物語のきっかけ自体がありえない設定では致命的な欠陥といわざるを得ない。


結局、ドンは息子らしい青年と出会うが、青年の正体もあいまいなまま。手紙の差出人さがしというミステリーより、20年という時間的空白を経ても人間の性格などそんなには変わらないということをドンの姿を通して言いたかったのだろうか。ジャームッシュ自身、20年前と映画のスタイルはさほど変わっていない。しかし、映画を通じて何かを訴えようとしていた情熱は確実に消え去り、外見の変化以上に中身はスカスカになっていしまっている。


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