こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

レント

otello2006-05-10

レント RENT


ポイント ★★
DATE 06/5/5
THEATER チネチッタ
監督 クリス・コロンバス
ナンバー 66
出演 アンソニー・ラップ/アダム・パスカル/イディナ・メンゼル/ロサリオ・ドーソン
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


ベルリンの壁崩壊からソ連邦解体まで東側陣営が消滅したことで欧米は未曾有の混乱を経験したが、同時にそれは東西冷戦からの解放であり平和への希望でもあった。そんな時代を背景に、世界の動静よりも「将来の夢はあるけれど、その日をどう暮らすか」という切実な問題を抱えた原作ミュージカルはそれなりにインパクトはあったのだろう。しかしこの作品で描かれている、エイズ、ドラッグ、犯罪、同性愛といった諸問題は今となっては時代遅れ、かといってノスタルジーを感じさせるほどの昔話でもない。中途半端な古臭さが澱のように全編を被い、ビートの利いた音楽にもノリを感じることはできなかった。


'89年クリスマス、NYのイーストビレッジに住む自称アーティストの卵、ロジャーとマークはロフトの家賃が払えず、電気も止められてしまう。そんな時、同じロフトに住むミミというダンサーが訪ねてきてロジャーと恋に落ちるが、2人ともHIV陽性。やがてミミはドラッグに溺れていく。


ケータイの代わりに留守電、ビデオの代わりに8ミリカメラといったデジタル面の進歩だけでなく、社会の脅威はテロではなくエイズ。人間関係がまだ「会う」「話す」というリアルなコミュニケーションで成り立っていたからこそ、恋や友情の温度や湿度も高かった。そんな、現代では失われてしまった他人への思いの濃さを描こうという熱意は理解できる。また、カネはなくても時間と夢と友情だけはたっぷりある若者たちの姿を通じて、青春のきらめきを描こうとする意図も十分に伝わる。しかし、夢や希望よりも死や苦悩のほうに重心が偏ったために、重苦しさだけがスクリーンから発露される。


もちろん若き芸術家の思いは100年前の「ラ・ボエーム」の時代とそう違わないだろう。だが、時代を超えた普遍的な青春物語に、あまりにも「今日性」を盛り込みすぎたのが災いした。屹立するWTCのツインタワーが象徴する'89〜'90年の青春は発酵の過程が十分ではなく、当時としては新しかったミュージカルナンバーも熟成した味わいには程遠い。


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