こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

グッドナイト&グッドラック

otello2006-05-15

グッドナイト&グッドラック GOOD NIGHT,AND GOOD LUCK.


ポイント ★★*
DATE 06/5/9
THEATER TOHOシネマズ六本木ヒルズ
監督 ジョージ・クルーニー
ナンバー 68
出演 デビッド・スタラザーン/ロバート・ダウニーJr/パトリシア・クラークソン/ジェフ・ダニエルズ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


くっきりとしたモノクロの陰影に浮かび上がるタバコの煙。オフィスやパーティ会場ならまだしも、本番中のニュースキャスターまでが火のついたタバコを指に挟み紫煙をくゆらせている。さらに「インテリ向けタバコ」のCMまで登場する。見ているだけで不愉快極まりない映像なのだが、50数年前はタバコという有害商品がいかに社会を汚染していたかがリアルな皮膚感覚として伝わってくる。言論・思想・信条の自由が侵される社会もイヤだが、喫煙者がでかい顔をしてタバコをすっている社会はもっとイヤ。つくづく現代はいい時代になったものだと感じさせる。


'50年代前半、米国はマッカーシー上院議員によるアカ狩りが最高潮。CBSテレビのキャスター・マローとプロデューサーのフレンドリーらはアカ狩りを「自由の死」と位置づけ、マッカーシーを批判する番組を放送し続ける。しかし、彼らの前に大きな壁が立ちはだかる。


物語はほとんどがCBSのビル内で展開する。企画会議での議論や本番中の緊張感はシャープな映像とあいまって自然と熱を帯びてくる。しかしそれはあくまで仕事上でのこと。いくら「自由を守るために闘う」と勇ましいことを口にしても、命まで狙われるわけでもなく暴力的な目に見える脅しや、盗聴や尾行といった身辺調査でプライバシーを狙われるわけではない。マロー自身がもっと取材現場に足を運んで嫌がる取材先を口説くとか、政権内部のネタ元から情報を得たり、その過程で身元不明の男に襲撃されるなどというジャーナリストとしての現場での修羅場を経験していないと、安全な場所からゲキを飛ばすだけのボクシングの観客と変わらない。


結局マローらは圧力に屈することなくマッカーシー批判を続け、報道の自由を守る。もちろんこの時代に吹き荒れた反共運動は歴史としては知っていても、現代人には遠い昔話でしかない。そこになんらかの感情移入できるキャラクターやエピソードを挿入し、観客を物語りに引きこむ工夫がほしかった。


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