こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ポセイドン

otello2006-06-02

ポセイドン POSEIDON


ポイント ★★★*
DATE 06/5/27
THEATER ワーナーマイカルつきみ野
監督 ヴォルフガング・ペーターゼン
ナンバー 82
出演 ジョシュ・ルーカス/カート・ラッセル/エイミー・ロッサム/リチャード・ドレイファス
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


押し寄せる海水と迫り来る炎。時間との闘いの中で迷路のような巨大客船内を出口を求めてさまよう乗客たち。次々と遭遇する困難に対して、弱気や油断は即命を落とすことにつながる。そんな極限状況の中で最後まで諦めずに挑戦し続けることの大切さをこの作品は訴える。愛や人生といったお涙頂戴的な要素を一切排して、生き残る決意を固めた人間の脱出劇だけに焦点を絞ったところが潔く、物語のテンポを加速し最後まで飽きさせなかった。


豪華客船ポセイドンが巨大な横波を受け転覆、生き残った乗員乗客はダンスホールに集まって救助を待つ。しかし、ギャンブラーのディラン、元NY市長ラムジーら一部乗客は脱出口を求めて船尾に向かう。彼らを待ち受けていたのは想像を絶するような水と火の地獄だった。


人間が危機的な状況におかれたとき、大切なのはその人の過去ではなく現在。何をしていたかではなく、今何ができるかが重要なのだ。さっきまで見ず知らずだった人々が、生きて脱出するという決意だけで団結し、力をあわせていく。みな自分にできる最大限のことをして、協力し合う姿が心地よい。こうした映画の場合、必ずチームワークを乱すようなキャラが登場するが、そうしたありきたりの人物描写に時間を割くような愚は犯さない。あくまでこの作品の主役は登場人物そのものではなく、彼らが体験する未曾有の恐怖とそれを乗り越える勇気と機知なのだから。


数人の脱落者と自己犠牲のおかげで一行は生還する。唯一自分が生き残るためにウエイターを蹴落とした老人が、彼の恋人だけは助けようとするシーンに感情がこもるが、そこもサバイバル劇の前では控え気味。ラムジーの自己犠牲は最大の見せ場なのに、ここでも感傷に浸っている暇はない。観客に脱出者の恐怖と興奮を同時体験させることだけに特化した割りきりが、この作品にスリムで筋肉質なスピードを与えている。「海猿2」の暑苦しい愛と自己犠牲に食傷気味の身には、人間ドラマというこってりした脂肪分を取り除いた分だけ消化によいだろう。


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