こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

インサイド・マン

otello2006-06-14

インサイド・マン INSIDE MAN


ポイント ★★*
DATE 06/6/10
THEATER ワーナーマイカルつきみ野
監督 スパイク・リー
ナンバー 90
出演 デンゼル・ワシントン/クライブ・オーウェン/ジョディ・フォスター/クリストファー・プラマー
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


抜群の知能を持つ犯罪者が完全な犯行計画を練り、実行する。リーダーはあらゆる場面で警察の動きを読み、先手を打ってくる。虚々実々の駆け引き、洗練された手口には警察だけでなく観客まで手玉に取られる。そのスピーディな展開と思いもよらない手口は一瞬の隙も与えない。一方で、歯切れよい展開とは裏腹に、消化不良の後日談は不快な残尿感のようだ。


ウォール街で銀行強盗が発生、犯人グループは従業員・顧客ら約50人を人質にとって立てこもる。銀行を包囲した警察はフレイジャー刑事が交渉に当たるが硬直状態のまま、今度は銀行会長の命を受けた弁護士が事件に介入してくる。ところが、犯人側は予想もしない手段で脱出を図っていた。


銀行内での犯人の行動と警察とのやりとり、そして奇想天外な脱出法は息をのむような緊迫感に圧倒される。しかし、犯人側の動機や情報の入手方法が不明のため、清涼なカタルシスにはほど遠い。銀行の会長がナチ協力者だった事を暴くわけでもないし、そもそも本人しか知らないはずの貸金庫の中身といった情報をどのようにして犯人は手に入れたのだろうか。彼の野望の犠牲になったユダヤ人の生き残りが数十年かけて秘密を探り、積年の恨みを晴らす、という背景が物語になければ画竜点睛を欠く。


ユダヤ人から奪ったダイヤとナチ党員証という被害届を出せない類のものを盗み、厳重な包囲網から人質に紛れて脱出するというプロットは秀逸。しかし、ジョディ・フォスター扮する女弁護士は結局事態を好転も暗転もさせず、そもそも不要なキャラクター。アイデアに溺れる余り背景説明を怠っているのはやはり物語の欠点だ。少なくとも犯人と刑事・女弁護士が実はグルでユダヤ人の積年の恨みを晴らすための計画だった、くらいのどんでん返しを期待したのだが。その分、シーク教徒やアルバニア人というマイノリティを登場させ、黒人米国市民よりさらに差別や偏見に苦しむ人々がいるということを描いたスパイク・リーは少しは大人になったのかも知れない。


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