こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

プルートで朝食を

otello2006-06-15

プルートで朝食を BREAKFAST ON PLUTO


ポイント ★*
DATE 06/6/14
THEATER シネスイッチ銀座
監督 ニール・ジョーダン
ナンバー 92
出演 キリアン・マーフィ/リーアム・ニーソン/スティーブン・レイ/
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


普通の女性ならまずしないような、女っぽさを強調したオカマ特有のねっとりとしたしなの作り方が不快感を誘う。女に生まれたかったのに男の体に生まれてしまった者ならではの過剰な思い込みが生み出す女らしい仕草と話し方は、自らを守るためにまとう鎧なのだろう。しかし、差別や偏見にさらされながらもアイデンティティに苦しんだり権利を主張することもない主人公はただ惰性に流されているだけ。自分を曲げないことが彼が取りうる最大の戦闘態勢なのだが、統一性のない散漫なエピソードの連続からは信念は見えてこない。


アイルアンドの小さな教会の前に捨てられたキトゥンは養母に育てられるが、男でありながら心は女の子。周囲からは浮いた存在だったが、友人にも恵まれる。成長したキトゥンは実母を探すためにロンドンに出るが、そこで女としての磨きをかける。


男が服装も心も女になりきる、という発想の元、キリアン・マーフィは表情から指先、心理状態まで完璧に演じている。ところが、彼が到達した境地は気持ち悪くなるようなタイプの女。もし彼が本当に遺伝的にも女だったとしても、絶対に避けたいタイプなのだ。感情的で短絡的で自堕落、女らしさといわれる性質の中でもネガティブな部分ばかり身につけている。この手のタイプを主人公に据えることで、観客の性同一性障害に対する試金石としているのだろうか。嫌悪感を覚えるようではまだまだ理解不足だというかのように。


時代背景を70年代に設定していることもあまり効果をあげていない。IRAがらみで友人が命を落としたり、自ら爆弾テロの容疑者にされたりするが、そのことが特にキトゥンの人生に影を落としているわけでもなく、なくてもいいようなエピソード。要するに、孤児でオカマという普通の人とは違う経験はしているが、特に物語として他人に訴えかけるほどの内容ではないのだ。もっと感情的なものを描きこまないと、2時間あまりの上映時間は苦痛でしかない。


↓メルマガ登録はこちらから↓