こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

タイヨウのうた

otello2006-06-19

タイヨウのうた


ポイント ★★*
DATE 06/3/15
THEATER 松竹
監督 小泉徳宏
ナンバー 39
出演 YUI/塚本高史/麻木久仁子/岸谷五朗
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


高校生のみずみずしい恋愛、しかも女の子は難病に侵されている。それだけで途方もなく陳腐な感じがするのだが、ヒロインを演じたYUIの透明感あふれる歌声がかろうじて作品をステレオタイプから救っている。不自由な生活に耐えながらも空想の翼を大空に広げたような思いを歌っているときだけが彼女が生きている時間。演技は素人に近いが歌はプロという彼女の存在なくしてこの映画は成り立たない。


紫外線を浴びると皮膚がただれる難病に侵された薫は、夜になるとギターを持って駅前ライブをしている。ある日、サーファー高校生の孝治と知り合う。二人はデートで横浜に出るが、薫の路上ライブには人垣ができる。しかし、病魔は着実に体を蝕んでいて、薫はギターを弾けなくなる。孝治は薫の歌のレコーディング費用を捻出するためにバイトに精を出す。


最初から不治の病で人並みの人生をあきらめていた薫と、薫の病気を知ってもなお薫に好意を持ち続ける孝治。普通ならデートを重ねて楽しい記憶をたくさん作るはずが、薫の病気のせいで行動が夜間に限定される。だから二人の共通の思い出は横浜での一夜だけ。薫が明け方のバス停にたむろする孝治たちのことをずっと見ていたというエピソードも薫の一方的な思いだし、薫の両親や親友がやたら出てくるために家族愛や友情のほうが前面に押し出され、恋愛映画というより歌がうまい少女のはかない人生という趣になってしまった。


なぜもっと薫の音楽に対する思い入れを描かないのだろう。太陽の光を浴びられない人生でも希望を持って生きているとか、難病の体でも恋する気持ちは普通の女の子と変わらないとか、迫りくる死に対する諦観とか。限られた命しかなく閉ざされた環境でしか生きられないヒロインの強烈な生へのメッセージを歌や映像に込めていれば、もう少し感情的な盛り上がりがあったはず。本人の「生きたい」という意志より、周りの人間の「生かしてあげたい」という気持ちのほうが強いのでは、やはりぬるいストーリーといわざるを得ない。


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