こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

バルトの楽園

otello2006-06-22

バルトの楽園

ポイント ★★★
DATE 06/6/17
THEATER 109シネマズ木場
監督 出目昌伸
ナンバー 95
出演 松平健/ブルーノ・ガンツ/阿部寛/国村隼
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


敗者の気持ちは負けた経験のある人間にしかわからない。元会津藩士としての誇りを失わず屈辱の中で息絶えた父の遺志を受け継ぐ主人公のひげはあくまで気高く、凛とした美しさを保つ。戦場で蛮勇をふるう軍人ではなく戦って敗れたものに対する敬意を忘れない人道主義者。実話を基にしたエピソードの数々は時に涙腺を刺激し、頬を弛ませる。マツケン阿波踊りステップはサンバ以上に様になっていて思わずひざを打つ。


第一次大戦下、青島で降伏したドイツ兵は捕虜として日本に送られる。松江所長が管理する徳島県の坂東収容所では捕虜は人道的に扱われ、ドイツ軍人は生きる希望を取り戻していく。やがて、ドイツは降伏するが、捕虜たちは松江の寛容に感謝するために「第九」の演奏会を開く。


戦争捕虜を賓客としてもてなし、地元住民との触れ合いを図るという、およそ戦争中とは考えられないのどかな人間同士の交流。その中で松江は相手を信頼することの大切さを説く。脱走を不問にされた捕虜がパン作りに希望を見出し、やがて戦友の娘を引き取って日本に永住するというエピソードを通して、人間にとって誰かに必要とされることがいちばんの生きる希望になることを訴える。


大勢の登場人物がよく交通整理されているが、おのおののエピソードで視点が頻繁に変わるので全体的にはまとまりに欠ける。母親に手紙を書き続ける若いドイツ兵が語り部のはずなのにいつの間にかその役割を放棄していたり、そうかと思えば松江の少年時代が回想されたり、ドイツ軍指揮官の苦悩が描かれたり。それらがクライマックスの「第九」に向かって有機的に収斂していれば納得がいくのだが。。。たとえば後にユーハイムとして成功した先のパン職人の回想形式にするくらいの脚色はすべきだろう。松江も聖人君子ではなく、立場を利用して算盤をはじき、ドイツの先進文明をタダで輸入した機転の利く人物くらいの人間くささはほしかった。それにしても、カラヤンと松江はどういうつながりがあったのだろうか。。。


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