こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

M:i:3

otello2006-06-30

M:i:3 MISSION IMPOSSIBLE


ポイント ★★★
DATE 06/6/23
THEATER UIP
監督 JJエイブラハムズ
ナンバー 99
出演 トム・クルーズ/フィリップ・シーモア・ホフマン/ミシェル・モナハン/ローレンス・フィッシュバーン
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


魅力ある敵役を活躍させることがこの種の映画の必須条件。しかし、フィリップ・シーモア・ホフマン扮する武器商人はそのキャラクターが読みづらく、狂気に駆られた悪党には見えない。もちろん人を殺すことに何の痛痒も感じないし脅しにも屈しないが、ステレオタイプの狂信者ではなく、あくまで冷徹な計算の元に行動するビジネスマン。そこにはリーダーとしてのカリスマ性も人間的な弱点も感じさせず、そのポーカーフェイスからは感情の発露は乏しい。これでは物語の添え物に過ぎず役不足の感は否めない。


自分の教え子が武器商人・ディビアンに殺されたイーサンは、ディビアンがテロ国家と取引する現場で彼の身柄を確保するが、味方の裏切りにあい逃げられる。逆にイーサンの妻がディビアンに誘拐され、ラビットフットという新兵器を強奪することを強要される。


トム・クルーズの走りへのこだわりがこの作品を荒唐無稽なアクションに堕ちることから救っている。上体をそらし足を高く上げ両手を大きく振る。狭い路地裏を疾走する彼のランニングフォームは200m走のマイケル・ジョンソンのよう。教え子の死を悼み愛する妻を救うために危険なミッションに身を投じる姿より、「走る」という基本動作を美しく描くことで、イーサン・ハントという主人公が血の通った生身の人間であることを強調する。


銃撃、カーアクション、爆発、ジャンプ、偽装、格闘・・・、映画は思考停止に陥るようなアクションの連続で一時も気が緩められない。そして、裏切ったイーサンの上司の、「武器商人を泳がせたうえでテロ国家を攻撃する口実を作って侵攻する」というブッシュ政策を揶揄するようなセリフも効果的。記号としての「悪」なしではスパイ組織も米国政府の支持基盤も成り立たないというアイロニーに、現代社会の病巣を見たようだ。それにしても、いままでご都合主義的だった変装用マスクの製作工程が明かされたのはこの作品の最大の収穫だった。


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