こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

美しい人

otello2006-07-10

美しい人 NINE LIVES


ポイント ★★*
DATE 06/7/4
THEATER BUNKAMURAル・シネマ
監督 ロドリゴ・ガルシア
ナンバー 105
出演 ロビン・ライト・ペン/ホリー・ハンター/シシー・スペイセク/グレン・クローズ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


ワンシーン・ワンカットという演出上の制約の下、10分前後の短いエピソードを9回重ねる実験的なオムニバスは、玉石混交。その短い時間内に集中して演じなければならない緊張感の一方、ヒロインたちの感情を描くことばかりに気を取られ何をいいたかったのか不明のものも半数以上。綿密に練られた会話劇に凝縮された喜怒哀楽は圧倒的だが、シチュエーションを明らかにするためにやや説明的になっているものもある。作品が発する人生に対する冷徹な視線が、愛を語るにはやや重過ぎる。


秀逸なのは第二話。臨月近い妊婦がスーパーで偶然昔の恋人と出会う。女のほうから声をかけ近況を報告しあううちに、男に「今でも愛している」とまで言わせるのだ。おなかの子供を気にしながらも、愛し合った過去をそのままよみがえらせ、復活の可能性を探るふたりの揺れ動く気持ち。それは、さざなみに乱反射する陽光のように明滅を繰り返す。愛するがゆえの喪失感が胸を締め付ける。


また、第六話で別れた夫の妻の葬儀に訪れた女が、いづらい思いをしながらも元夫に言い寄られ、ついには密室でセックスに及ぶ。女の業の深さ。男の心の弱さ。しかし、このふたりはこのふたりでお互い必要不可欠なまでに求め合っているという美しさ。表層からは分らない男女の愛の深層を鋭く抉り出している。


そして、最終話。年のいった母親が小さい娘を連れて墓参りに行く。ふたりの他愛ない会話からは何の変哲もない母娘の関係しか浮かび上がってこない。しかし、娘の好物のブドウをそっと墓石に置くシーンで、実は母親は亡くなった娘の命日に墓参に訪れたことが明らかになる。永遠に色あせることのない、母親の娘への思い。死んでしまった娘は年を取らず、母親だけが娘の思い出を胸に年老いていく現実。その悲しさを包む込むような傾き始めた柔らかな日差しが印象的だった。


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