こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

胡同のひまわり

otello2006-07-17

胡同のひまわり 向日葵

ポイント ★★★
DATE 06/5/26
THEATER メディアボックス
監督 チャン・ヤン
ナンバー 81
出演 スン・ハイイン/ジョアン・チェン/リウ・ツーフォン/ワン・ハイディ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


長幼の序列を重んじ、父親の権限が絶大だった儒教道徳の洗礼を受けた最後の世代の男が、その絶対的な価値観を人生において2度も完全に否定される。父親は絶望と諦観のなかで一度目は自分の息子に夢を託すことで立ち直ろうとするが、その息子にまで拒否されてしまうのだ。この父親は、2000年以上にわたって中国を支配してきた封建主義の象徴である胡同とともに20世紀の末に姿を消すが、それはあらゆる意味において近代化を疎外してきた儒教的価値観に対する、中国人=チャン・ヤン監督の決別宣言だ。


北京の胡同に母親と暮らす9歳のシャンヤンの下に6年ぶりに下放から父親が戻る。シャンヤンは絵画を教えようとする父親になじめず反抗を繰り返す。19歳になったシャンヤンは恋人を作るが、彼女との仲も父親に引き裂かれる。そして32歳になり結婚もしたシャンヤンは画家としてのキャリアを順調に積み上げていた。


文革という政治的社会的騒乱で画家としてのキャリアを、息子の反乱というかたちで愛を打ち砕かれた父親の心情が悲しい。時代の流れに順応していく母親や新時代を担おうとするシャンヤンと違い、孔子の教えにしがみつく父親は適応力も生活力もなく、ただ時代から取り残される。それでも泣き言をいうわけでもなく、世の中の変化に最後まで抗い、やがてそのささやかな抵抗も力尽きたとき、そっと消える。もはや家族には必要とされないが、それでもどこかで見守っているよという、満開のひまわりに託したメッセージがしっとりとした保湿液のように心に水分を染み込ませていく。


シャンヤンと父親の関係は、文革毛沢東語録を知らずに育ち、ものごころついた時には資本主義が社会のシステムとして機能していた世代の、旧世代への反抗。それは古きよきものに対するオマージュではなく、長所短所を含めたすべての封建道徳からの卒業と、再び世界一の先進国に返り咲くことを21世紀の目標とした中国人の決意表明に思える。


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