こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ハチミツとクローバー

otello2006-07-28

ハチミツとクローバー

ポイント ★★★
DATE 06/7/22
THEATER 109シネマズグランベリーモール
監督 高田雅博
ナンバー 117
出演 櫻井翔/蒼井優/伊勢谷友介/関めぐみ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


天才的なアーティストと凡庸な学生。決定的な才能の違いは決して乗り越えられない大きな壁となって凡人を圧倒し、天才の運命を翻弄する。そして能力のある者は社会的な評価だけでなく恋愛の世界でも一人勝ち状態。友人という輪の中では皆平等なのに、その結果は努力だけではどうにもならないほど差がついてしまう。自分の限界を知りつつ、それでもまだアートの世界で生きていこうとする美大生たちの心の彷徨を、切ない恋愛に絡めてさわやかに描いている。


浜美大の学生・竹本は入学してきたはぐみに一目惚れ。そんなとき留年中の森田が帰国、森田は一目ではぐみの画才を見抜き、そんな森田にはぐみは惹かれる。一方、竹本の女友達・山田は真山という男が好きなのに、真山はバイト先の年上女性に夢中になっている。


大学生という、大きな夢を持ちつつも自分の器の小ささにも気づいているという微妙な年代。アートでプロになれるのはほんの一部で、卒業すれば大きな夢は諦めなければならないという現実。せめて恋愛だけでも勝者になりたいと願うのに、それすらもままならない。しかし、竹本も山田も真山も、建築や陶芸という静的なアートではそのせつなさを創作のエネルギーとして発露できないというジレンマ。このちぐはぐなバランスこそが青春の生々しい傷跡となって見るものの共感を呼ぶ。しかし、二人の天才・森田とはぐみは恋愛感情に心を動かされない。特に森田は無限の才能に溢れ、破天荒な生き方もむしろ「これぞアーティスト」的で魅力的にすら見える。


結局、竹本・山田・真山は諦めるべきものと追い続ける夢をきちんと整理して新たな道に進む。だが、彼らの関係は最後までプラトニック。若い男女なのだからもっと性的にアグレッシブなはずなのに、あえてセックスにまつわるドロドロとした感情を伏せたおかげで、敗者にも優しい清涼感が漂う作品になった。


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