こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

蟻の兵隊

otello2006-07-31

蟻の兵隊


ポイント ★★★★
DATE 06/6/21
THEATER 映画美学校
監督 池谷薫
ナンバー 97
出演 奥村和一/金子傳/村山隼人/藤田博
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


真実を知らなければならない、その思いだけが年老いた男を突き動かし、国家の裏切りを白日の下に晒していく。それは、自分自身が犯した行為を省みて罪を認める過程でもある。主人公にとって残された時間は少なく、戦後60年という長きにわたって自らを苦しめてきた過去との決着を急がねばならない。一兵卒として中国に侵攻した挙句司令官から見捨てられ、戦後中国国民党の傭兵として共産党と戦うことを余儀なくされた元日本兵の執念を通して、あの戦争はなんだったのかを鋭く問いかける。


日本の無条件降伏後も中国に残り国共内戦を戦った奥村和一は、帰国後「脱走兵」扱いされ軍人恩給が支給されなかった。数少ない残留兵の生き残りと共に裁判に訴えるが敗訴、自分たちが中国に残ったのは「命令によるもの」であることを証明するべく奥村はかつての駐屯地・山西省に渡る。


奥村にとって日本兵としての身の潔白を証明する旅は自分の悪行の記憶を発掘する旅でもある。公文書館で古い資料を漁り、司令官が保身のために2600人もの部下を国民党に売った事実。その一方で、上官の命令とはいえ奥村自身が犯した民間人の虐殺と陵辱の事実。被害者であると同時に加害者でもあるという複雑な立場で、奥村はかつての中国人被害者を訪ね、自分の行為を懺悔する。奥村の訪問を受けた中国人は彼を責めようとはしない。忌まわしい歴史に蓋をしようとする日本人ときちんと清算しようとする中国人。このあたりの歴史に対する鮮明な認識の違いが今日の日中摩擦を生んでいるのだろう。


靖国神社に誰が祀られているかを知らないギャル、愛国心軍国主義を混同している右翼、そして己の従軍体験を嬉々として語る小野田元少尉。人ごみでごった返す靖国神社の境内で、奥村は小野田に「侵略戦争を美化するのか」と厳しく問う。それは、かつて自分を戦場に送ったA級戦犯昭和天皇に向けての言葉だろう。結局、誰も責任を取らなかった先の侵略戦争、奥村のような人々の死を持って真実を闇に葬ってはならないということを痛切に感じた。


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