こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

トランスアメリカ

otello2006-08-03

トランスアメリカ TRANSAMERICA

ポイント ★★★
DATE 06/8/1
THEATER シネスイッチ銀座
監督 ダンカン・タッカー
ナンバー 124
出演 フェリシティ・ハフマン/ケヴィン・ゼガーズ/バート・ヤング/グレアム・グリーン
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


自分の性別に対する違和感とはどこから生まれてくるのだろうか。男の体を肉体的に改造しなければ気がすまないというところまで思いつめた過程より、かつて一度だけ男性機能を使ったときの子供とのロードムービーにしたことで、性の問題より親子に横たわる溝を乗り越えた心の交流という設定にしたところが心地よい。血のつながった子供は性別にかかわらず気になるもの。主人公の秘密を知った両親と息子の反応がリアルで、性障害は本人だけでなく周りの人々も巻き込むことを映画は訴える。


性転換手術を一週間後に控えた性同一性障害のブリーは、忘れていた息子・トビーを迎えにNYに行く。女装のブリーは実の父であることをトビーに打ち明けないまま、クルマでLAに戻る旅に出る。しかし、やがてブリーの秘密がばれるときが来る。


17歳のトビーにとって自分の実の父親が性同一性障害であると知ったら、その事実を受け入れることはできまい。だからこそ日本でも子供がいないことが性転換認可の条件となっている。自分の過去にきちんと責任を持つこと。一度でも女とセックスした男は女に性転換できないという枷をはめないと悲劇は繰り返される。幸い、トビーは不幸な家庭環境に育ったから父親の真実もそれほど時間をかけずにすんだ。世間の偏見や無理解と闘う勇ましい主人公ではなく、息子に対して責任を負う立場にしたことで物語に奥行きを持たせ、この問題に内在する複雑な要素をあぶりだす。


自分が愛するものを犠牲にしてまでなりたい自分になることが果たして正当化されるのか。性転換手術に対して、この映画は賛成も反対もせず、結論を観客に委ねる。一番大切なことは相手を理解し、受け入れること。いくらリベラルな思想の持ち主でも、頭で理解しても感情では受け入れがたい、他人の家庭の話ならかまわないが自分の家族ならイヤというのがホンネだろう。そのあたりあまり感情的にならずあくまで対象に距離を置いたカメラの視線がバランスが取れていた。


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