こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ハードキャンディ

otello2006-08-04

ハードキャンディ HARD CANDY


ポイント ★★★*
DATE 06/5/23
THEATER 東芝エンタテインメント
監督 デイヴィッド・スレイド
ナンバー 79
出演 パトリック・ウィルソン/エレン・ペイジ/サンドラ・オー/
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


天使の顔をした悪魔なのか、神が遣わした復讐の鉄槌なのか。少女は時に無邪気にあどけなく、時に冷酷無比に残忍な横顔を見せる。華奢な体つきとは裏腹に大人の男を縛り上げ梁に吊るすその体力や、男の心理状態を読んで先手を打つ知力は14歳の少女のレベルをはるかに凌駕し、そのリアリティの薄さが暗くゆがんだ殺意を醸し出す。男と少女、ほとんどが2人だけの会話で成り立つ室内劇において、彼女が放つ恐怖のオーラは徐々に男=観客を底なしの絶望に追い込んでいく。


出会い系サイトでヘイリーという少女と知り合ったカメラマンのジェフは、彼女を自宅に誘い出すことに成功する。しかしジェフはヘイリーにクスリを飲まされ失神、気がつくと手足を縛られてからだの自由を奪われていた。そしてヘイリーはジェフの去勢手術を始める。


顔面に脂汗を滴らせ許しを請うジェフに、ヘイリーが淡々と手順を説明しながら去勢を施すシーンは、生々しい実感となって急所を直撃する。氷で感覚を麻痺させてあるとはいえ、意識を保持したまま睾丸を切り取られる精神的な激痛。行き過ぎると悪趣味になりかねない残酷なシーンを俳優の表情だけで描ききった演出は見事だ。この苦痛を乗り越えたあとはどんな展開が待っていても、もはや驚かない。


結局、ジェフは連続少女殺人犯であることをヘイリーに告白させられたうえ、自ら命を絶つしかない状況に追いつめられる。その過程でヘイリーは自分の正体を明かすのだが、彼女が口にした言葉からは比喩的な意味ではなく超自然パワーの存在を肯定するものだ。ここで彼女の人智を超えた知力体力のトリックを合理的に説明していれば現実に起こりうる奇談として背筋も凍るのだが、このままでは少女の姿を借りた幽霊による陳腐な復讐譚になりかねない。そのあたりのツメをもう少し緻密に構成していれば、カルト的なファンを生む可能性のある作品だった。


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