こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

スーパーマン リターンズ

otello2006-08-18

スーパーマン リターンズ SUPERMAN RETURNS


ポイント ★★★
DATE 06/8/12
THEATER チネチッタ
監督 ブライアン・ジンガー
ナンバー 129
出演 ブランドン・ラウス/ケイト・ボスワース/ケビン・スペイシー/ジェイムズ・マーズ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


空気を引き裂くような速度で飛ぶ姿勢から空中で静止する優雅な姿まで、所作の美しさにこだわったスーパーマン。スピードとパワーは彼の力を、微笑と包容力は彼の優しさを象徴する。悪と闘うことよりも、かつての恋人との微妙な関係に心を痛め、彼女への嫉妬や怒りといった感情も内に秘めたまま口に出せず飲み込んでしまう。スーパーヒーローもあまりにも生真面目でストイックな性格だと、他人が求める「正義の味方」像を演じなければならないと思うあまり自分を抑制してしまい、いくら超人的能力があっても自分の気持ちを表現することもままならない、まさに‘男はつらいよ’状態だ。


5年間の自分探しの旅から地球に戻ったスーパーマンクラーク・ケントは新聞社に復職、そこでかつての恋人ロイス・レインに再会するが彼女にはすでに婚約者と息子までいる。そんな時、悪の帝王レクッス・ルーサーが復活、大西洋に新大陸を出現させる計画を実行に移す。


クリストファー・リーブ似の無名俳優を使い、心躍るようなテーマ曲、タイトルバックの曳光文字、悪役のスキンヘッドまで前シリーズの体裁を踏襲しているが、最大の違いは主人公に人間的な心の迷いを持たせたことだろう。まさしく超人的な肉体能力で犯罪者を懲らしめ、危険に陥った人々を救う。かつてのスーパーマンの活躍には誰もが「自分にもこんな能力があれば」と思わせる圧倒的な魅力があった。しかし今回は、彼とて心は人間、スーパーマンであるがゆえにままならない恋に胸を痛める姿には憧れより哀れみを感じる。こんな人生楽しくないだろうな、と。


結局、ルーサーとの闘いに一度は破れ瀕死の重症を負うが、ロイスの息子が自分との間に出来た子と知り再び力を得るスーパーマン。ロイスの本当の気持ちと父親としての自覚が以前にもまして強靭な精神力となり、ルーサーの野望を砕く。愛する家族のためにがんばらなきゃという強烈な思いが能力を倍化させるという、きわめて人間的な勝因。新スーパーマンに逡巡や葛藤を持ち込むことで共感は持てたが、理屈抜きの爽快感には欠けていた。


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