こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

otello2006-09-11



ポイント ★★★*
DATE 06/7/3
THEATER メディアボックス
監督 キム・ギドク
ナンバー 104
出演 チョン・ソンファン/ハン・ヨルム/ソ・ジソク/チョン・グクァン
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


時に2人だけの時を祝福する旋律を奏で、時に2人だけの世界を守る武器となる。そして占いの道具として使われるときには2人の間の絶対的信頼の証。使われ方によって様々な顔を見せる弓という道具は、2人だけで完結した世界の象徴。張り詰めた緊張は孤高を謳い、やわらかなメロディは愛を語る。老人と少女の楽園には言葉はなく、ただ見つめあう瞳と瞳で会話する。その静けさは映像に途方もないほどの詩的な奥行きをもたらしている。


海に浮かんだ一艘の船で生活する老人と少女。少女の17歳の誕生日に2人は結婚することになっている。ある日、2人の船にひとりの若い青年がやってきて、少女は彼に恋心を抱く。そして、彼女は老人の気持ちが重荷になってくる。


大切に育ててきたものを他人に奪われる無念。老人にとって少女こそが生きる目的であり、彼女と結婚することが人生のすべて。婚礼の日のために少しずつ衣装を買い足し、カレンダーにバツ印をつけていく老人の行為は切ないほどに純粋だ。10年もの間少女を軟禁状態に置いた老人の行為は褒められたものではないが、彼女への献身と情熱は愛や性を超越した崇高な精神のみがなしえるものだ。少女に不自由を強いる以上に自らを厳しく律した老人の決意こそが、この作品に弓のような緊迫感を与えている。


青年と共に船を離れようとする少女を、老人は命がけで止めようとする。少女は老人の意思の固さを知り、結婚を承諾する。古式にのっとった婚礼の後、老人は弓に弦を番え空に放ち、海に身を投げる。しかし、老人の分身となった弦は少女の身を貫き、破瓜の血を流す。陸の人間である青年には決して分らない老人と少女の関係。それは決して言葉では表現できない至高の絆であることを饒舌に物語っている。一方で、あらゆる関係は時と共に変わっていくことを控えめに暗示する。どんな人間も時間の侵食には耐えられないのだ。

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