こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

記憶の棘・・観客を放置

otello2006-09-25

記憶の棘 BIRTH


ポイント ★*
DATE 06/8/22
THEATER 東芝エンタテインメント
監督 ジョナサン・グレイザー
ナンバー 135
出演 ニコール・キッドマン/キャメロン・ブライト/ダニー・ヒューストン/オーレン・バコール
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


自分の再婚に自信が持てない女が見た妄想か、空想壁がある少年の手の込んだいたずらの暴走か、それとも本当の転生か。女はもちろん死別した前夫に今も思いを残しているが、10年の歳月と新しい恋人の出現を経てその傷は癒えようとしている。しかし、少年のあやふやな動機を考えると、やはり彼は前夫の生まれ変わりと考えるべきなのか。映画は残された妻の未練なのか死んだ夫が愛なのか、テーマをはっきりさせないうえ、謎を謎のまま答えを出さず観客を放置する。


再婚を間近に控えたアナの前に10歳の少年が現われ、10年前に突然死した夫・ショーンだと名乗る。少年はアナや家族しか知らない事柄まで克明に知っていて、いつしかアナも彼がショーンの生まれ変わりではないかと思い始める。そして少年はアナの再婚を思いとどませようとする。


もちろん、少年が本当にショーンの生まれ変わりで、不幸な再婚を予知したがゆえに思いとどまらせようとアナの前に現われた、というような陳腐な構成にはしたくなかったのだろう。冒頭で生まれ変わりを否定するセリフを入れながらも、ショーンが死んだ直後に出産シーンが用意されているが、これは転生を信じていなかったショーンが転生したということではないか。なのに映画の後半では転生に対して否定的なシーンが挿入されていたりして、いたずらに混乱を招いている。これは謎解きなどではなく、ただ観客を馬鹿にしているだけだろう。


好意的に考えても、アナはショーンが自分だけを愛していたのに自分は再婚しようとしていることに負い目を持っていて、少年は偶然目にしたアナの手紙からアナの理想としたショーン像を演じていたということだろう。しかし、実はショーンは不倫中でアナ以外の女を愛していたという事実から、少年はアナと2人で築き上げたショーン像を演じきれなくなったというのが結論か。それでも少年の動機に疑問が残る。それともショーンは生まれ変わったとき、アナを愛した記憶だけを都合よく選別したのだろうか。いずれにせよ、変化球で三振を取ろうとしてとんでもない暴投になってしまったという感は否めない。


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