こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

天軍

otello2006-09-26

天軍


ポイント ★★
DATE 06/8/2
THEATER シネマート
監督 ミン・ジュンギ
ナンバー 125
出演 キム・スンウ/パク・チュンフン/ファン・ジョンミン/コン・ヒョジン
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


結果が分っている過去にタイムスリップしたとき、そこで何をしたかが問題。ほんのわずかでも変えてしまうと現在に多大な影響をもたらすはずなのに、この作品では未曾有の国難に瀕したときに救国の英雄として立ち上がった一人の男の人生を変えようと、過去に積極的にかかわってしまう。そんな矛盾を感じさせる余裕がないほどのパワーとスピードがこの作品にはなく、また人情コメディとしても掘り下げ方が甘い。外国や蛮族から故国を守り北も南もない朝鮮半島を実現しようという理想は分るが、アプローチの方法が間違っている上に北に対する物分りのよさが現実の世界情勢を反映していない。


南北共同開発した核弾頭が米中の圧力で廃棄される寸前、北の少佐が強奪する。それを追った南の小隊もろとも16世紀にタイムスリップ、そこは農民が蛮族の侵入を受けて苦しむ朝鮮の辺境。そして一行は若き日の李舜臣と出会い、ケチな密輸屋に過ぎない李を偉大な将軍に育てようと訓練を施す。


現代の圧倒的な装備を持つ軍人が、歴史に触れてはいけないと知りつつ巻き込まれてしまう。その間の戸惑い、葛藤のようなものがほとんどなく、現代に戻ろうという努力もしない。同行した女科学者も核兵器開発主任になるぐらいの頭脳の持ち主なら彗星の公転周期くらい暗算ではじけだせるだろう。そのあたり、コメディの要素を盛り込もうとしているのだが、軍隊という規律の世界には彼女のキャラクターは至って不自然だ。


そして何より李舜臣のキャラクター。朝鮮史上屈指の大将軍も実は28歳まで浪人同然で、韓国軍人によって武官の道を進むなどというぬるい展開まで用意されている。結局、蛮族との戦いで李はリーダーシップを発揮し後の片鱗を見せたうえ、ラストでは秀吉軍との歴史的海戦まで用意している。朝鮮半島は今こそ強力なリーダーの下に団結し、日米中露といった周辺国に伍した国づくりをしなければならないという映画の主張は明確だが、それより北をまともな国家にすることが先決だろう。


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